研究分担者 |
三木 恒治 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (10243239)
中村 晃和 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10381964)
上田 崇 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50601598)
芦原 英司 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (70275197)
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研究実績の概要 |
共同研究者である芦原らは、正所性膀胱癌マウスモデルを用いて、γδT 細胞の膀胱内 注入療法の有効性、およびBCG 注入療法が有効性を示さないMHC クラスI の欠失した膀胱癌細胞に対しても、γδT 細胞が抗腫瘍効果を示すことを報告した。(T Yuasa, E Ashihara., et al. Cancer Immunol Immunother. 58:493-502.2009) γδT細胞の抗腫瘍効果が骨髄腫の細胞株において骨髄腫細胞株のICAM-1の発現強度に比例して抗腫瘍効果が増強されることや、ICAM-1の対する中和抗体を投与すると抗腫瘍効果が減弱し、さらに骨髄腫細胞株にICAM-1 cDNAを発現させることにより増強することを確認し、ICAM-1発現の有無がγδT細胞の骨髄腫に対する治療効果予測因子となりうることを報告した。(Uchida, R. Ashihara, E., et al. Biochem Biophys Res Commun 352:635-641:2007) 骨髄腫の細胞株において、ZOLにより前処置を行った細胞株から、細胞外にIPPが周囲に放出されること、およびIPPがγδT細胞の癌細胞に対する遊走因子であることをμチャンバーの実験系で報告した。( Ashihara, E., et al. Biochem Biophys Res Commun 463:660-665:2015) γδT細胞の全身療法は、臨床治験が行われており一定の効果をあげているが、全身投与では十分な免疫細胞を治療目的部位へ到達させる事が困難であることや大量投与に伴う副作用のため、その治療効果には限界がある。γδT 細胞膀胱内注入療法は、膀胱という閉鎖空間に投与する独創的な細胞療法であり、Effecter 細胞濃度を維持したままtarget に到達できることからも、高い直接効果が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、膀胱癌の臨床検体、およびSCIDマウスに移植した膀胱癌を用いて、CAF(cancer associated fibroblast)の分離、初代培養を繰り返し行い、得られたCAFを癌細胞とγδT細胞との共培養時に添加し、抗腫瘍効果の変化を検証、癌微小環境に影響する因子を特定する予定であったが、得られたCAFの増殖能力が芳しくないため、現在培養条件を調整中である。そこでまず、γδT細胞の抗腫瘍効果の確認検討とともに、vivoモデルの構築を優先させ検討を行っている。 健常人の末梢血から採取し、ZOLとIL2を用いたγδT細胞培養は、CD3,TCR-αβ,TCR-γδに特異的抗体を用いて確認し、最大で約800倍の増幅が可能であることを確認している。また抗腫瘍効果に関しては、E:T比やZOLの癌細胞への前処置に依存する形で複数の膀胱癌細胞株において著明な抗腫瘍効果を発揮することが確認できている。抗腫瘍効果評価方法としては、癌細胞をCFSE染色し、γδT細胞との共培養後PIまたは7-AADにて染色し、CFSE+/PI+分画を死細胞分画としてFCMを用いて評価、もしくはルシフェラーゼ遺伝子を導入したがん細胞株をγδT細胞と共培養し生体発光の変化で検討する。 Vivoの実験では、6-8週齢雌SCIDマウスを用いて、膀胱内にルシフェラーゼ遺伝子を導入した膀胱癌細胞株を尿道より移植、正着させて正所性膀胱癌モデルを作製。癌正着後のマウスに対して週1回のγδT細胞の経尿道投与を行う。治療効果判定にはIVISによるルシフェリンでの化学発光により検出をおこない、経時的に評価している。しかしヒト膀胱癌細胞に対するSCIDマウスの拒絶反応があり正着率が芳しくないため、NK細胞活性を除去する抗アシアロGM1抗体の投与やT細胞活性を除去するため放射線照射の併用を実施中である。
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今後の研究の推進方策 |
CAFの培養条件の検討を早急に進める。当初の計画である癌微小環境の解析の進展が望めなかった場合、もう一つのテーマとして考えているγδT細胞と抗癌剤を併用した複合型免疫療法の開発およびそのメカニズム解明の検討を行う予定であり、現在予備実験を開始している。 γδT細胞の単独の免疫療法のみでは治療効果に限界があるため、既存の膀胱癌に対する標準治療薬(CDDP,GEM,MTX,VBL,ADR,MMCなど)を併用した複合免疫療法に現在着目している。抗癌剤の暴露濃度、暴露時間を癌細胞に対して致死量とはならないが、癌細胞表面のタンパク、接着因子に変化を与えるとされる、免疫誘導致死濃度をWST8アッセイにより検討する。決定した濃度で、癌細胞株をZOLと同時に前処置を行い、γδT細胞による抗腫瘍効果が増強される抗癌剤を探索する。 同定した抗癌剤で暴露されていない細胞株と暴露された細胞株において細胞に腫瘍抗原としてupregulationされた抗原(PDL-1,DNAM-1,MICA,MICB,ICAM-1,Fas、等)を各接着因子に対する抗体でFCMにより確認する。 その中で、抗癌剤処置で有意に差が出た分子をピックアップし、同分子をsiRNAによりノックダウンもしくはcDNAを強制発現し、その際の抗腫瘍効果の変化を検証する。 またIL17産生γδT細胞が腫瘍促進性に機能するといった知見を踏まえて、γδT細胞と癌細胞の共培養前後で培養上清中の各種サイトカイン(IFNγ,TGFβ,IL1,IL6,IL17,IL23など)などを定量化する、有意な差が出た場合には、中和抗体を用いてサイトカインをブロックすることで結果抗腫瘍効果の変化を検証する。従来、抗癌剤による化学療法は免疫抑制的に作用し、免疫療法と相反すると考えられていたが、γδT細胞の免疫療法と組み合わせて化学療法もしくは免疫療法の各単独療法よりも相乗的に抗腫瘍効果をもたらす適切な薬剤の検索、およびそのメカニズムを今後、網羅的解析継続する予定である。
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