本研究では、有効な治療法のない易再発性表在性膀胱癌に対するドラッグ・リポジショニングの考え方を活用しつつ既存薬剤であるα1ブロッカー型経口排尿障害治療薬ナフトピジルを用い、QOLを重視した新規治療法、予防法の開発を目指してきた。 我々は、ナフトピジルとその尿中代謝物がともにヒト膀胱癌細胞株に対してin vitro、in vivo両面で抗腫瘍効果を示すことを明らかにしてきた。また、ナフトピジルの空腹時の未変化体の最高血中濃度は服用後1時間未満であり、さらに服用後6時間後での未変化体の血中濃度は最高血中濃度の1/10程度に低下しており、そのほとんどは肝臓で代謝され、尿中に排泄されることが判明している。よって尿に暴露される膀胱癌は他臓器癌と比較してより高効率に抗腫瘍効果が発揮されると期待できる。さらにこの代謝物である新規抗癌剤候補物質(HUHS190)のアポトーシスシグナルへの影響についても検討し、アポトーシス抑制タンパク質の一つであるAktのリン酸化レベルが低下したことから、ナフトピジルおよびHUHS190のアポトーシス誘導経路の一つはAktの阻害であることが推測され、その裏付けもとることができた。 最終的に代謝産物の中で最も強い抗腫瘍効果を示すHUHS190を用いて、再度in vivoでの抗腫瘍効果の確認を行い、同時にその安全性についても評価を行った。 今後はこの代謝物の大量合成法についても確立させ、実際の臨床患者を用いた、代謝産物を活用する新しいドラッグ・リポジショニングの考え方での研究を予定している。
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