研究課題/領域番号 |
15K10622
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
今村 哲也 信州大学, 医学部, 特任講師 (00467143)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 骨髄由来細胞 / 放射線照射傷害膀胱 / スフェロイド |
研究実績の概要 |
われわれは、放射線照射によって傷害を与えた膀胱に骨髄由来細胞を移植することによって機能的な膀胱が再生することを報告してきた。骨髄由来細胞の移植方法としては、膀胱組織への直接注入移植や温度応答性培養皿で作製した細胞シートのパッチ移植を行ってきた。 しかし、直接注入移植法で用いる骨髄由来細胞は、酵素処理や遠心などの操作によって回収することから、本来の活性が低下している懸念があった。さらに、直接注入移植法の場合、既に傷害を受けた膀胱組織に針を刺し注入することから、傷害を拡大してしまう恐れがあった。一方、温度応答性培養皿を用いて作製した細胞シートのパッチ移植では、シートを構成している細胞の膀胱構成細胞(平滑筋や神経細胞)への分化が認められなかった。われわれは、細胞シートから産出された細胞増殖因子やサイトカインによるパラクリン効果によって膀胱が再生したものと考察した。しかし、単層(一枚の)細胞シート移植では、実臨床での重篤な難治性の排尿障害、例えば、高度な膀胱萎縮をともなうような膀胱では、十分な治療効果が望めないと考えた。 そこで、本研究は、実臨床を視野に入れ、より効率的かつ効果的な高機能細胞シート作製を試みた。培養した骨髄由来細胞から細胞凝集体(スフェロイド)を形成し、温度応答性培養皿に播種しスフェロイドシートを作製し、4-5枚重ね合わせた積層型スフェロイドシートの作製を計画していた。この研究を開始直前に、新規技術であるバイオ3Dプリンターの利用が可能になった。このバイオ3Dプリンターにより、骨髄由来細胞スフェロイドを温度応答性培養皿に播種することなく、直接、積層型スフェロイドシート(構造体)を作製できるようになった。したがって、本研究は、当初の計画を若干変更し、骨髄由来細胞スフェロイド積層型構造体による膀胱再生が可能かどうか検討することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していた骨髄由来細胞からスフェロイドを形成させ、温度応答性培養皿を用いて積層型スフェロイドシートを作製する方法から、バイオ3Dプリンター(レジェノバ、株式会社サイフューズ、委託作製)を利用してスフェロイド積層型構造体の作製へと若干の変更を行った。 本年度、われわれは、骨髄由来細胞スフェロイド積層型構造体を作製した。さらに、パイロット試験的な要素があるが、実際に放射線照射傷害膀胱モデルに骨髄由来細胞スフェロイド積層型構造体を移植した。移植2週間目において、移植した構造体は、レシピエント膀胱組織に生着し、構造体を構成している一部の細胞が膀胱平滑筋に分化していることを確認した。さらに、構造体移植により、膀胱機能の一部が改善することを確認した。 以上から、当初の計画の変更による研究遂行の遅れや支障もなく、円滑に進めることができた。当初計画していた積層型スフェロイドシートよりもより優れた構造体を作製することに成功し、実臨床をめざした上で、大きな成果を得られたと考える。また、構造体移植による膀胱再生の可能性が示唆されたため、今後の研究が円滑に進む手応えを得た。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、われわれは、放射線照射で傷害を与えた膀胱にバイオ3Dプリンターで作製した骨髄由来細胞スフェロイド積層型構造体の移植をすることによって、一部の膀胱機能が回復する結果を得た。われわれは、これまで、骨髄由来細胞の直接注入移植や細胞シートパッチ移植では、移植後4週間目に評価してきたが、現在得られている結果は、移植後2週間目である。したがって、移植後の経過観察をもう少し長くし、積層型構造体による膀胱組織再生の関与、あるいは、膀胱機能の回復などを検討していく予定である。 また、来年度は、これまで得られてきた標本をより詳細に解析するとともに、移植後長期間での変化などを解析する予定である。さらに、骨髄由来細胞スフェロイド積層型構造体のスケールアップ、強度の向上などの改善ついても並行して行っていく予定である。
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