研究課題
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、ほぼ全例で腎容積(TKV)が増大する。TKVが大きいほど、腎機能が低下するが、TKVの測定方法が確立していない。多くの場合、臨床では楕円法(π/6 x 長径 x 短径 x 高さ)で計算されるが、測定者間および測定者内でも10%近い誤差が生じるため楕円法によるTKVはあまりにも不確実である。正確かつ簡便なTKV測定方法を確立するためにSYNAPSE VINCENT嚢胞腎追跡アプリケーションを開発した。楕円法(r = 0.9504)と比較して、Vincent法(r = 0.9968)は高い相関係数であった。また楕円法では正確な腎容積と14.2% ± 22.0%の差があるのに対して、Vincent法では0.6% ± 6.0%であった。また、cAMPとバソプレシンがADPKDの病勢進行に関与することが知られ、バソプレシンの前駆物質であるコペプチンの血中代理マーカーとしての検討はすでに報告されているが、いまだ確立していない。しかし、尿中コペプチンの濃度がADPKD患者の重症度と関連があるかどうかは知られていない。そこでCKDステージ1-4のADPKD患者で尿中コペプチン濃度(u-copeptin)をELISAで測定し、eGFR、総腎臓容積(TKV)と身長補正したTKV(htTKV)を含む臨床パラメータと比較した。u-copeptin/u-CrはTKV(R = 0.351, p = 0.014)、htTKV(R = 0.383, p = 0.008)と有意に相関し、eGFR(R = -0.304, p = 0.036)と有意に逆相関した。したがってu-copeptin/u-CrはADPKDの重症度に関するマーカーと考えられた。以上のようなADPKDの進行における有用な代理マーカーが、今後iPS細胞によるモデルの寄与すると考える。
2: おおむね順調に進展している
ADPKD患者からのiPS細胞樹立を試みた。まず、ADPKD患者の皮膚初代培養からiPS細胞樹立を行う前に、セルラインからiPS細胞樹立を試みた。山中4因子(Oct 3/4, NANOG, KLF-4, c-MYC)をレトロウイルスベクターを用いて導入し、フィーダー細胞上で培養した。得られたコロニーよりiPS細胞の未分化マーカーを確認したが、一部で十分な発現が見られず、精度の高いiPS細胞樹立には至っていない。技術面と導入遺伝子の組み合わせの問題が原因と考えられ、現在検討中である。
引き続きiPS細胞の樹立に向け導入する遺伝子の変異(LIN28)や、遺伝子導入方法についてレトロウイルスベクター以外の方法を試みる。方法が確立されれば、ADPKD患者の皮膚から初代培養を行いiPS細胞を樹立する。作成したiPS細胞を用いてMOD/SCIDマウスに奇形腫を発生させ、臓器病態モデルを作成し、ヒトで有用であった代理マーカーの発現など解析を行う。
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PLos One
巻: 11 ページ: e0166288
10.1371/journal.pone.0166288
Clin Exp Nephrol
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