哺乳類精巣は軽度低温環境下にあり、低温ショック蛋白質であるCirpとRbm3が恒常的に発現している。しかし、停留精巣ではこれらの発現が低下する。Cirpは低酸素や紫外線でも発現誘導され、抗アポトーシス活性、ストレス抵抗性を与える。しかし、Cirpが細胞外に存在すると炎症を増悪し、発癌を促進する。そこで、低温ショック蛋白質遺伝子のノックアウトマウスと野生型マウスとを比較することにより、低温ショック蛋白質が個体レベルで停留精巣等の病態を悪化させるか、あるいは防護的に働くかを明らかにすることを目的とした。 1. C57BL/6マウスに10代以上バッククロスをかけた後、ホモのCirpノックアウトマウスを得た。マウス精巣の片側に対して実験的停留精巣手術を行い、対側をコントロールとした。3,4,6,10日後に精巣を摘出して組織切片を作成し、HE染色を行った。その結果、3,4日後の精細管ではCirpノックアウトのほうが野生型マウスより細胞減少が著明だったが、6,10日後では両者に差がなかった。 2. DNA損傷修復(相同組み換え)活性を検出できると報告されているレポータープラズミドDR-GFPと制限酵素I-SceIを発現するプラズミドを入手し精製した。次いで、DR-GFPプラズミドをU-2 OS細胞に導入して安定的に発現するクローンを得、I-SceIによりDNA二重鎖切断を誘導、フローサイトメトリーによりGFP発現を定量化した。I-SceIを発現させない場合に比し蛍光発現が増加しており、相同組み換えを検出することができた。 3. Cirpの発現が野生型マウスのthioacetamide誘発肝癌で増加していること、Cirpノックアウトマウスでは酸化ストレスが減少し、肝癌の発生が抑制されることが明らかになった。
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