研究実績の概要 |
非閉塞性無精子症(nonobstructive azoospermia: NOA)は男性不妊診療および研究における最重要課題の一つである。実臨床においてはSertoli cell only (SCO), maturation arrest (MA), hypospermatogenesisに簡潔に分類されることが多い。次世代シーケンサー(NGS)によるヒト精巣組織の網羅的遺伝子解析(RNA-seq)を行っている。 NOAの過半数を占めるSCOにおいて、精祖細胞やspermatogenic stem cell (SSC)は最初から存在しないのか、それとも途中から消失していくのか、SCOについての情報は極めて少ない。NGSによるヒト精巣組織のRNA-seqにより過半数のSCO症例において精祖細胞やSSCに発現する遺伝子の発現を認めた。 NOA症例に対するvaricocele repairやサルベージ内分泌療法はearly MAよりも明らかにlate MAにおいて有効である。early MAとlate MAの大きな違いはmeiosisという劇的にクロマチン構造や細胞内代謝の変化が生じるステップであり遺伝子の発現量のみではその病態を説明することには限界がある。NGSによるRNA-seqにより新規ヒストンバリアントであるヒストンH3.5の存在を見出し、ヒト精巣内では主に精祖細胞および精母細胞に局在することが確認された。Early MAにおいては何らかのepigenetics異常の存在も主な病態の1つではないかと考えられる。一方でearly MAにおいても活発に細胞分裂を行っているgerm cellは、Sertoli cellによる貪食を受けると言われている。SCOの機能異常という観点からもearly MAやSCOにおける造精機能障害の説明ができる可能性もある。
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