研究課題
非閉塞性無精子症(non-obstructive azoospermia: NOA)は男性不妊診療および研究における最重要課題の一つである。実臨床においてはSertoli cell only、maturation arrestおよびhypospermaotgenssisに分類されることが多い。次世代シーケンサー(NGS)によるヒト精巣組織の網羅的遺伝子解析(RNA-seq)を行なっている。精子形成過程における遺伝子の発現と機能を解析することにより、それらに作用しうる薬剤や様々な因子を見出すことによりNOA症例に対する新規治療法の開発を目的とする。ヒト精巣組織を用いたNGSによるRNA-seqにより新規ヒストンバリアントであるヒストンH3.5の存在を見出し、ヒト精巣内では主に精粗細胞および精母細胞に局在することが確認された。NOA患者においては有意にその発現が減少しており、maturation arrestにおいては何らかのepigenetics異常の存在も主な病態の1つではないかと考えられる。一方でearly MAにおいても活発に細胞分裂を行っているgerm cellは、Sertoli cellによる貪食を受けると言われている。NOA症例においてはSertoli cell特異的な遺伝子の発現低下も認めており、Sertoli cellの機能異常という観点からも造精機能障害の説明ができる可能性もある。
2: おおむね順調に進展している
ヒト精巣組織を用いたH3.5に関する研究において、免疫組織化学染色(IHC)、構造解析、NGSを用いたChIP-sequenceにより、H3.5は主に精粗細胞や精母細胞などの精子形成の早い段階で発現し、疎水結合が弱く、transcription start siteの手前に結合するなど一般的なヒストンとは異なるパターンで結合することが判明した (Urahama T et al. Epigenetics & Chromatin 2016)。さまざまなヒト精巣サンプルを用いたIHCにてH3.5の発現は精上皮依存性の発現を認め、下垂体ホルモン(ゴナドトロピン)による制御を受けていることが判明した(投稿中)。解析症例数も順調に増え、またNGSを用いたランスクリプトーム解析についても技術的な点については問題なく行われている。造精機能が良好な精巣においてはcell cycle関連遺伝子の発現が高いことが判明し、精索静脈瘤症例におけるproliferating nuclear cell antigen (PCNA)を用いたIHCを行った。精索静脈瘤手術後に精液所見が改善する因子として精粗細胞におけるPCNAの発現がたかいことがその予測になることを報告した(Shiraishi K et al. Journal of Urology 2017)。精細胞が存在しないといわれているSertoli cell onlyからのサンプルにおいても精原幹細胞の存在を示す遺伝子の発現があることが判明し、IHCにて精原幹細胞のマーカータンパクの局在を解析している。
レーザーマイクロダイセクションを用い、精巣組織の限定された対象細胞のみの遺伝子解析も予定している。またSertoli cell only症において精原幹細胞の同定が行えれば、それらをisolationしsingle cell analysisによる機能解析を行う予定である。またisolationされた細胞の培養も考えている。
網羅的遺伝子解析により研究対象とする候補分子の決定が早期になされたため、GSを用いたトランスクリプトーム解析は予定より少ない症例数で済んだため。
レーザーマイクロダイセクションやsingle cell analysisの準備に充てる予定であるが、これらは別のプロジェクトとして申請すべきであると考えている。また論文および学会発表の費用にも充てる予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
Journal of Urology
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Epigenetics & Chromatin
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