研究課題/領域番号 |
15K10661
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永松 健 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (60463858)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 早産 / 炎症 / プロテアーゼ |
研究実績の概要 |
プロテアーゼの誘導に伴う子宮頸管の病的熟化は早産の中心的機序として知られている。本研究は子宮頸管熟化制御における生理的な抗プロテアーゼ分子の役割を解明し、子宮頸管におけるプロテアーゼの作用抑制を標的とする新規の早産予防治療の開発を進めている。 ヒト頸管の炎症性制御、プロテアーゼ機能の調整因子について検討を進めた。頸管熟化との関連が強いことが報告されてきた遺伝子群について妊娠末期女性の頸管擦過細胞中のmRNA発現変化の解析を行った。その結果、発現パターンの状態が炎症および細胞外マトリックスの分解に対して促進的に作用する遺伝子群とそれに拮抗する機能を有する遺伝子群の2つの群の発現量のバランスとして説明できることが明らかになった。また、さらにこれらの遺伝子発現の経時的な検討では、一部の遺伝子では分娩の1週間前に急激に発現が低下する一方で上昇を継続する遺伝子も存在しており、妊娠末期の頸管では炎症およびプロテアーゼ機能が適切に制御されつつ、熟化が進行していることが確認された。 動物実験では、抗プロテアーゼ、抗炎症作用を有する抗菌ペプチドであるSLPIに着目して検討した。抗プロゲステロン剤やLPS炎症刺激による早産誘発マウスモデルに関して検討を行った。その結果、子宮、頸管のSLPI産生はプロゲステロン作用および炎症の双方の刺激により亢進することが明らかとなった。今後SLPIの妊娠中の頸管機能維持に果たす役割について検討を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の検討により、ヒトの頸管熟化関連遺伝子群の全体像について、分娩が近づくにつれて熟化促進因子と熟化抑制因子の双方の発現パターンを把握できた。その中で、炎症-抗炎症バランスおよびプロテアーゼ-抗プロテアーゼの2つのシステムが頸管熟化の鍵となっていることが確認された。また、SLPIは分娩に向けて持続的に上昇し分娩発来、早産の予知マーカーとしての有用性が期待される結果を得ている。 マウスモデルを用いた研究においては、これまでの検討によりSLPIの子宮頸管、胎盤における発現制御機構について解明が進んでいる。とくにプロゲステロンが子宮-胎盤系におけるSLPI産生の重要な促進因子となっており、一方で分娩に際してはプロゲステロン作用の減弱と同時にSLPIが低下することも確認できた。今後は妊娠維持におけるSLPIの機能について検討を進める。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、妊娠末期の陣痛や破水の予知、また早産という正常から逸脱した時期における分娩徴候の発生の予測を可能とするような、バイオマーカーの開発を目標の一つとして掲げている。これまでの進捗で得られた結果からSLPIのみならず複数の分子の頸管における発現を同時に見ることで予測精度を向上できる可能性が示されている。今後、さらに頸管粘液および頸管細胞のヒト検体の収集を行い、臨床症状との関連性に着目してデータの収集を継続する予定である。また、ヒトおよび動物実験の結果からSLPIが妊娠維持、頸管機能の鍵を握る因子であることが示唆されてきたことを踏まえ、今後は炎症制御やプロテアーゼ分子との相互作用に着目してその機能についてノックアウトマウスを用いた実験を進めてゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は動物実験施設および研究施設の移転に伴い、動物実験を停止せざるを得ない期間が生じ、また実験器機の一部の使用ができない期間が出たため次年度使用額が生じた。そのため、その期間に使用を予定していた研究費部分については次年度への持ち越しとした。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度に十分な検体収集が進んでいるヒト頸管細胞、粘液サンプルを用いて切迫早産などの異常妊娠をターゲットとして、正常例との比較のための分子生物学的実験を進める予定である。そのための蛋白定量、mRNA発現量測定に必要な物品の購入を予定している。動物実験ではSLPIノックアウトマウスでは平成27年度の予備実験で少数匹数での検討を行っている内容についてサンプル数を増加させて結果の確認を行う必要がある。また、頸管熟化過程におけるプロゲステロンとSLPIの相互的作用の検討に関してはこれまでの結果より早産誘発薬剤について容量依存的な作用について検討が必要となることが予想される。そのため、昨年度に比較してマウスモデルのための飼育関連費用、採取したサンプルの分子生物学的実験のための費用が大幅に増える予定であり、昨年度からの持ち越しの研究費を充当して進めてゆく予定である。
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