早産は我が国では全妊娠の5-6%に発生し、その出生児に長期的な心身障害を生じる重大な周産期疾患である。早産を生じるリスク要因は多様であるが、その原因の如何によらず最終的には子宮局所における炎症性カスケードへと帰結して不可逆的に進行する。本研究では頸管熟化を促進するプロテアーゼに拮抗する働きを持つ抗菌ペプチドの一種であるsecretory leukocyte protease inhibitor (SLPI)に着目して頸管熟化制御のメカニズムを解明を進めた。早産機序の異なる2つの早産マウスモデルを用いてプロテアーゼ-抗プロテアーゼの不均衡と頸管熟化の関係を探索した。また、妊娠女性の頸管細胞、粘液サンプルを用いた解析を行った。早産マウスモデルにおける検討の結果から、SLPIは、子宮頸管で主に上皮内に発現し、プロゲステロンによる制御と、炎症による制御の2種類の制御を受けていることが確認された。細胞培養実験では、マウスモデルと一致してSLPIの発現がグルココルチコイド受容体を介してプロゲステロンにより誘導されることが確認された。また、マウスモデルにおいてSLPIは好中球エラスターゼとLPSの同時投与により誘発される早産を抑制した。妊婦における分娩前の子宮頸部の頸管熟化では、NFkb誘導性の炎症関連遺伝子群、抗炎症遺伝子群、細胞外マトリクスの分解に関与する遺伝子群の3種類の経路の活性化が示唆された。頸管熟化に関わる分子の中でもSLPIは正常な分娩前および早産の前に顕著な発現の亢進が確認された。以上の結果より、SLPIはプロゲステロンによる産生誘導を受けて頸管熟化の制御因子として機能しており、感染などに伴う局所炎症が生じた場合には発現が増加して炎症制御に関わることが示唆された。
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