細胞質内のミトコンドリアには品質管理システムが存在しており、ミトコンドリアの健常性と機能を維持するために重要な役割を担っている。本研究では癌抑制遺伝子p53誘導性のタンパクである Mitochondria-eating protein(Mieap)が、不良なミトコンドリアを貪食・除去することで細胞質内のミトコンドリアの健常性を維持していることに注目し、生殖細胞におけるミトコンドリア品質管理システムの役割と、その破綻が及ぼす悪影響を、Mieapノックアウトマウス(Mieap-KO)を用いて検討してきた。 野生型マウス(WT)とMieap-KOをそれぞれ若年群と加齢群に分別した。WT精子あるいはMieap-KO精子、およびWT卵子あるいはMieap-KO卵子を用いて体外受精を行った。 若年Mieap-KO精子と加齢WT精子は、運動率が低く、奇形率が高かった。卵巣刺激で得られた卵子数は、若年WT卵子と若年Mieap-KO卵子、加齢WT卵子と加齢Mieap-KO卵子で、それぞれ同等だった。受精率は、若年Mieap-KO精子あるいは加齢WT精子を媒精したグループで有意に低かった。2細胞胚から4細胞胚への到達率は、若年Mieap-KO精子を媒精したグループで有意に低かった。若年Mieap-KO精子や加齢WT精子を媒精したグループでは、2細胞胚におけるミトコンドリアの活性酸素種(ROS)産生が著しく亢進していた。一方で、卵子におけるMieap-KOや加齢の悪影響は明らかでなかった。 ミトコンドリア品質管理を司るMieapは、精子の形態や運動能を保つために必須である。Mieap-KO精子で多くの2細胞胚が発育停止した事実は、Mieap発現の減弱した精子が胚で酸化ストレスを誘導する可能性を示唆する。Mieapは加齢に伴う卵子の質低下に関与しない。
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