研究課題/領域番号 |
15K10664
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
深澤 宏子 山梨大学, 総合研究部, 助教 (60362068)
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研究分担者 |
平田 修司 山梨大学, 総合研究部, 教授 (00228785)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミトコンドリア分布 / 紡錘体移植 |
研究実績の概要 |
加齢卵由来の胚の発生障害の主原因は、加齢卵の細胞質の機能異常によるものと考えられているが、その「機能異常」の具体的なメカニズムについてはほとんど解明が進んでいないというのが現状である。今回、加齢卵の細胞質の機能異常のメカニズムを、とくに、MII 卵細胞質内のミトコンドリアの分布の制御機構に焦点を絞って、解明することを目的とし、MII 卵細胞質内のミトコンドリアの分布の制御に、紡錘体が重要な役割を果たしていることは確実であるので、その制御メカニズムの詳細を検討する目的で本検討を行った。 昨年度はまず、過排卵処理して得たマウス MII 卵からマイクロピペットを用いて紡錘体を分離して、MII 卵細胞質体と核体とを作製し、MII 卵細胞質体に、マイクロピペットを用いて核体を移植して (MESI)ミトコンドリア分布の経時的変化を観察した。具体的には、MII 卵細胞質体を蛍光顕微鏡で観察すると、除「核」前に紡錘体が存在していた部位が明らかになるので、核体の移植の際に、もともと紡錘体が存在していた部位 (ミトコンドリアの分布が正常な MII 卵由来の細胞質体の場合には、ミトコンドリアの分布密度が高い部位)、それとは反対の部位 (ミトコンドリアの分布密度が低い部位)、等、さまざまな部位に特異的に移植し、細胞質内のミトコンドリアの分布の経時的変化を解析した。すると、移植した紡錘体に引き寄せられるようにミトコンドリアの分布が変化した。一方、採卵後、インキュベーター内で 24 時間保存した in vitro aged 卵では、紡錘体を移植してもミトコンドリア分布は新鮮卵ほど変化せず、発生障害の原因としてミトコンドリア分布が寄与している可能性が示唆された。また、ミトコンドリア自体にも加齢の影響がある可能性に関して、ミトコンドリアDNAとマトリックスの関係の視覚的観察を行う実験系の確立を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
加齢卵の発生障害にミトコンドリアの分布あるいは機能低下が影響している可能性が示された。加齢卵の卵細胞質の機能をミトコンドリア分布で測るだけでなく、発生の悪い卵細胞質内のミトコンドリア自体の機能がどのように変化しているかを確認する目的で、ミトコンドリア DNA とミトコンドリアマトリックスを視覚的に観察することを想起し、mRNA を注入してその分布と初期発生の関係を検討することを試みている。具体的には、それぞれを異なる色の蛍光色素で染色することとした。ミトコンドリア DNA やミトコンドリアマトリックスに蛍光色素を発現させるための mRNA を複数作成し、それぞれ細胞質内への注入量や注入後の観察時間など詳細に検討している。しかし、発現が弱く観察が難しいため、さらに mRNA の CAP 構造や poly A 付加等を試み、より発現量が多くなる様な条件を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
ミトコンドリア DNA とミトコンドリアマトリックスを視覚的に観察する系を確立した後、新鮮卵と in vitro aged MII 卵におけるミトコンドリア DNA とマトリックスの関係や、ミトコンドリア分布が経時的に変化可能である細胞質を持った卵細胞のミトコンドリアでの観察など、いろいろな条件下で検討を行い、加齢卵の発生障害に影響を与えているミトコンドリアの機能異常のメカニズム解明の手がかりを探る。マウスにおいては、高齢マウスから得られる MII 卵も「正常」であるものが多く、いわゆる「加齢卵」は極めて採取し難い。そのため、高齢マウスを用いた研究は極めて実験効率が悪く、研究計画が立案しにくい。一方、これまでの基礎的検討で、in vitro aged MII 卵ではミトコンドリアの細胞質内分布の異常を示す割合が増加するとともに、受精能や受精後の胚発生率が低下することが明らかになっている。これらのことから、ヒトの「加齢卵」の疑似モデルとして、採卵後24時間経過した in vitro aged MII 卵を用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ミトコンドリアDNAとミトコンドリアマトリックスを視覚的に観察するための基礎的な検討(注入するmRNA量の検討や発現量の検討)に予想以上に時間がかかり、予定していたいろいろな条件下でのミトコンドリア観察等の検討がまだ進められていないため、本来使用する予定だった金額は本年度使用する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
実験系が確立でき次第、新鮮卵と in vitro aged MII 卵におけるミトコンドリア DNA とマトリックスの関係や、ミトコンドリア分布が経時的に変化可能である細胞質を持った卵細胞のミトコンドリアでの蛍光観察など、いろいろな条件下での検討をする予定であり、そのためのマウス購入等に使用する予定である。
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