研究実績の概要 |
これまでに私どもは,長年にわたり子宮内膜症の病態について詳細な検討を重ね,子宮内膜症では,エストロゲンによる発育・増殖の調整に加えて,子宮内膜および骨盤局所において,生殖機能に障害をもたらす炎症および炎症促進反応が生じていることを明らかにした(Khan et al. Fertil Steril 81:652,2004; Hum Reprod 20:49,2005; Hum Reprod 20:2004,2005; Hum Reprod 23:2008; Gynecol Obstet Invest 68:40,2009; Fertil Steril 94:2860,2010).また,子宮内膜症の炎症には局所の組織ストレス反応が関連し(Khan et al., Hum Reprod, 2013),炎症とエストロゲンの相加作用により子宮内膜症の増殖に影響することを示した[Khan et al., Reprod Sci, 2014 (submitted)].内分泌機構と炎症は子宮内膜症の病態に大きく関わっている(Khan et al., Hum Reprod, 2005; AJRI, 2008).細菌性エンドトキシンであるリポポリサッカライド (LPS)が炎症の初期トリガーとしてTLR4受容体を介して子宮内膜症の増殖に関与している(Khan et al., Fertil Steril, 2010; Hum Reprod, 2012). E.coliが月経血に混入する機序のひとつとして,私どもは,子宮内膜症では月経血あるいは腹水中のPGE2濃度が上昇しており,これらは直接的な細菌増殖促進作用あるいは間接的な免疫抑制作用によりE.coliの増殖に関与していることを示した(Khan et al., Hum Reprod, 2013).また,抗菌蛋白であるヒトβ-defensin-I(HBD-1)およびSLPIの子宮内膜における発現が月経期に低下することを確認し,これらは子宮内膜症での細菌コンタミネーションに関与している可能性がある(カーンら, 日本エンドメ学会誌, 33:2012).私どもは,10年にわたるこれらの検討から,子宮内膜症の新たな病態仮説として,「bacterial contamination hypothesis,細菌コンタミネーション仮説」を提唱した.
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