平成30年度は前置胎盤15例の検体を集積した。妊娠20週頃より経時的に母体血の採血を行い、胎盤特異的microRNA(mir518bなど)を分子マーカーとして癒着胎盤のリスク推定を試みた。平成29年度の前置胎盤10症例についてはいずれも臨床的に癒着胎盤ではなかったため、癒着胎盤のリスク評価は不可能であったことから、癒着胎盤が疑われる症例は積極的に当科のへ紹介を依頼することで症例数は増加したが、15症例のうち病理組織学的に癒着胎盤であった症例は1例もなく、癒着胎盤のリスク評価を行うことはできなかった。また、帝王切開術中超音波検査は、すべての症例で施行できた。全例において子宮筋層と胎盤の間に存在する低エコー域(sonolucent area)が明瞭に描出された。Sonolucent areaは組織学的には脱落膜に相当すると考えられており、これを確認できた場合には胎盤と筋層に間に脱落膜が介在する、すなわち癒着胎盤ではないと判断できる。この所見が平成30年度のすべての症例において認められたことから癒着胎盤ではないと判断され、通常通り胎盤の剥離が試みられた。結果胎盤は全例で容易に剥離でき、胎盤剥離後の多量出血も認めなかった。娩出した胎盤は病理組織検査に提出したが、癒着胎盤を疑わせる所見は認めなかった。この結果から、術中超音波検査は癒着胎盤の診断に有用であることがあらためて確認された。
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