研究課題/領域番号 |
15K10682
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
赤坂 珠理晃 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (90526724)
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研究分担者 |
小林 浩 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40178330)
重光 愛子 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (50553244)
成瀬 勝彦 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (70453165)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脂肪組織 / 妊娠高血圧腎症 / 炎症 / 内臓脂肪組織 / 皮下脂肪組織 / 血清 |
研究実績の概要 |
倫理委員会の承認と文書による同意を得て、婦人科手術のため大網切除を行った生殖可能年齢の患者から大網を内臓脂肪組織として、反復帝王切開症例の皮膚の切除瘢痕組織から皮下脂肪組織を採取した。血清は正常妊婦および重症妊娠高血圧腎症患者から採取した。 脂肪組織は液体培地内では浮遊してしまうため、99.5%培地含有ゲル(PuraMatrix,Becton Dickinson&Co.)を用いて組織は培地に固定し、正常妊婦血清と妊娠高血圧患者血清を添加し24時間培養を行った。培養後の上清を回収し、これらについて生化学的検討をくわえた。 正常妊婦血清をくわえた実験においてはTNF-α,IL-6,CRP,FFAなど炎症に関連する液性因子は、皮下脂肪組織に比して有意に内臓脂肪組織が上昇していた。また内臓脂肪組織においては、正常妊婦血清に比して妊娠高血圧腎症患者血清をくわえた群が有意にTNF-α,FFAが上昇していた。 今回の研究からは成人でも言われているように、妊婦においても皮下脂肪組織と内臓脂肪組織が異なる働きを有していることが明らかになった。特に炎症においては内臓脂肪組織がより密接に関わっている可能性が示唆された。このことは脂肪組織は単なる脂肪の分解・貯留といったエネルギー貯留に関する働きをするだけでなく、脂肪組織が炎症における重要臓器であることを示唆する。脂肪組織は脂肪細胞だけでなくリンパ球、線維芽細胞、結合組織、マクロファージなどから構成される。脂肪組織培養は脂肪細胞培養に比して、より生体内の条件を反映することができ、新しい知見が得られるものと思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は脂肪組織培養を用いており、その検体は手術患者から得ている。皮下脂肪組織については手術件数から考えても十二分に採取することが出来た。しかし内臓脂肪組織として採取する大網については採取が十分な症例を確保することが困難で、症例数を集めるのにも時間を要した。原因としては①大網切除症例が婦人科手術症例において稀ではないが少ないこと②主に切除が行われるのは腫瘍を有する患者であるが、実験の性質上、大網に転移性病変を肉眼的および病理学的に認めるものは除外していること③妊娠という背景が研究課題にあることから、採取の対象患者を生殖可能年齢の患者としているために対象患者が少なく、また採取に関する同意が得られにくい④脂肪組織は脂肪細胞と異なり、採取してすぐに実験に用いなければならず時間的制約がある、といった4点が研究を進めるうえで大きな障壁となった。これら課題については正直なところ、研究者サイドで解決しようにも方法がなく、地道に該当患者が現れるのを待ち、その都度真摯に対応していくしかないと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
組織を用いる実験という性質上、やや研究の進捗状況として遅れていることは否めないが、対象患者が現れた場合に同意を得ることを含めて、一歩ずつ進めていく。また、組織培養で得られた最大の成果として、やはり内臓脂肪組織は炎症に密接に関わっていることが明らかになった。①ではその炎症を起こしているのは、脂肪組織中の何であるのか?(脂肪細胞なのか?それとも細胞細胞と何かが共同して起こっているのか?)②炎症を惹起するものは何なのか?(今回の研究では血清を添加することにより炎症が起きている。であればこの血清中に炎症を惹起する物質が含まれているのか?そうだとすれば何であるのか?⇒これは判明することにより妊娠高血圧腎症治療の戦略を大きく左右する。)これらを進めるためには単独培養・共培養を含めた細胞培養系の実験が必須になると思われる。しかし脂肪細胞の実験は高額である(脂肪細胞は前駆細胞から分化させて行うが、そもそも前駆細胞が高額である。その上に継代培養すると性質変化が大きく、プライマリーの細胞を何度も購入すると非常に高額となる)出来る限り脂肪細胞を用いる回数が少なくて済むように、今後の組織培養から得られたデータから実験計画を綿密にたてて行っていきたい。
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