研究実績の概要 |
生殖可能年齢の女性から得られた大網から内臓脂肪組織を、手術における切除瘢痕から皮下脂肪組織を採取した。脂肪組織は液体培地では浮遊するため99.5%培地含有ゲルを用いて脂肪組織を培地に固定して、患者血清を添加して組織培養を行った。血清は重症妊娠高血圧腎症患者のものを用い、コントロールに正常妊婦血清を用いた。培養後の上清をELISAを用いて測定するとTNF-α,IL-6,CRP,FFAなど炎症に関連する液性因子は、皮下脂肪組織に比して内臓脂肪組織が有意に上昇していた。妊婦においても皮下脂肪組織と内臓脂肪組織が異なる働きをしていることが明らかとなり、特に炎症においては内臓脂肪組織がより密接に関わっていることが示唆された。 内臓脂肪組織に患者血清を添加して組織培養を行い細胞障害性について検討したところ、正常妊婦血清添加群に比して妊娠高血圧腎症血清添加群はアポトーシスは亢進しているがLDHなどの細胞障害性マーカーは低下していた。培養後の脂肪組織のmRNAを抽出し炎症をターゲットにした遺伝子について定量RT-PCRを行った。免疫反応においてTh1優位を誘導するIL-18が上昇している一方、BCL6,CCL28,LTB4RのようにTh2優位を誘導する遺伝子の上昇を認めた。TLR4のような酸化ストレスに対して反応性を示す遺伝子の上昇があるが、PRDX5,MIF,NFE2L1,CSF3Rのような宿主免疫を高める遺伝子の上昇を認めた。同様にインスリン抵抗性を誘導するようなIFNGR2,NFX1の上昇もあればインスリン感受性を誘導する遺伝子であるIL10RAの上昇も認めた。これらのことから脂肪組織は炎症などの病態に対して不利に働く遺伝子を誘導するとともに、生体に対して有利に働く遺伝子も誘導する。脂肪組織が生体において防御機能を有することが認められた。
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