研究実績の概要 |
胎盤早期剥離は、脱落膜内の血管の破綻、出血が増悪して発症する。胎盤早期剥離の微小な出血を超音波検査など画像診断することは困難であるが、その何らかの微小な変化を捉えて、大きな出血を予測することを目的に検討を行っている。前置胎盤の出血も同様に内子宮口付近の脱落膜の剥離によって起こる。警告出血のあった前置胎盤で一度止血するのは胎盤剥離における脱落膜の微小な出血と同様なメカニズムであると考えられる。前置胎盤の警告出血例を対象に、その後の出血多量になる臨床経過の検討を行った。警告出血後に再出血で緊急帝切となった群(Case)と、出血が増量せず予定帝切となった群(Control)を被殻した。Case 54例、Control 50例を解析した。Case、Controlそれぞれの警告出血をきたした週数の中央値(範囲)は、30 (19-35)週、31 (19-37)週(p=0.031)であったが、警告出血から分娩までの日数は変わらなかった。また、Case, Controlで、経産婦は69%, 48% (p=0.034)、早産既往は34%, 9% (p=0.004)、全前置胎盤は83%, 60% (p=0.008)、placental lacunae所見ありは28%, 12% (p=0.045)、警告出血時の子宮下節の閉鎖例は35%, 7% (p=0.044)であった。警告出血後の再出血は、経産婦、早産既往、警告出血時の子宮下節閉鎖例の割合が多く、妊娠中の子宮下節および子宮頸管の動的変化が再出血に影響を及ぼしていると考えられた。このことは、胎盤早期剥離の発症リスクの検討より得られた結果である、子宮の動的変化をきたす子宮収縮が関連するという結果と一致すると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
妊娠初期11-13週、20週、28週、34週に採血を行い、血漿成分、血球成分、血清成分を分離して保存する。胎盤早期剥離症例では、発症直前にendoglinが徐々に上昇するという報告や、AFPやPAI-1などの関連性が指摘されていることを踏まえ、脱落膜の微小な出血によって分泌されうるPAPP-A, hCG, HPL, PP13, endoglin, FLT-1を標的に、cell-free RNA、およびcellular RNAを用いて定量する。なお、これらの測定値は、妊娠週数とともに変化するため、前置胎盤、常位胎盤早期剥離の疾患症例数の8倍の正常経過をたどった妊娠の血液を用いて週数毎の正常の中央値を作成する。その上で、候補遺伝子(蛋白)が抽出できた段階で、該当する血清中蛋白濃度を定量し、それを用いた発症予知の可能性についても検討する。絨毛膜下血腫などの胎盤早期剥離が発症している可能性の高い症例に対しても同様な検討を行い、血中濃度の推移を調べる。
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