研究課題/領域番号 |
15K10691
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
五十嵐 敏雄 帝京大学, 医学部, 教授 (10311622)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 子宮内膜症 / 不妊症 / 花粉症 / 3エチルピリジン(3EP) / CD44 / テネイシン / エピナスチン / プロゲステロン受容体 |
研究実績の概要 |
本研究は子宮内膜症(以下、内膜症)に関連する不妊症患者に対して妊娠可能な治療法を探る研究である。非ホルモン性に内膜症病変をコントロールして不妊因子を最小限にするのが理想的と考え、内膜症病変にみられるアポトーシス抵抗性とI型アレルギーを改善することに着目した。子宮内膜は月経前にプロゲステロンによりアポトーシス誘導を受ける。アポトーシスを受けた腹腔内逆流・子宮内膜は貪食されるが、アポトーシス抵抗性の内膜は貪食から逃れ、骨盤内臓器や腹膜に生着・増殖して内膜症に進展すると考えられる。内膜症病変もアポトーシスに抵抗性を示し、慢性炎症だけでなくI型アレルギーも起こすことが知られ、非ホルモン性の直接作用薬があれば排卵を抑制することなく病変コントロールやアポトーシス誘導を期待できる。慢性炎症やI型アレルギーの薬で痛みや病変のコントロールができれば、治療中の妊娠も理論上可能である。我々はアポトーシス抵抗性機序として病変に多量発現するCD44を、治療薬候補としてCD44特異的インヒビターで食品添加物として人体に安全とされる3エチルピリジン(3EP)を、I型アレルギー薬として花粉症薬・エピナスチンを検討した。また、プロゲステロンによるアポトーシス抵抗性の原因としてプロゲステロン受容体発現を病変で確認した。我々は内膜症手術を行った患者さんで花粉症頻度を調査して内膜症患者に花粉症が多い傾向があることを確認し、投薬希望のある花粉症合併例にエピナスチンを投与して術後妊娠や妊娠に至るまでの期間を観察したところ、エピナスチン投与例で妊娠までの期間が有意に短くなった。3EPに関しては過去に他院で投与されて妊娠に至った例を後方視的に調査し、内膜症患者さんで3EPを多く含む焼きイカなどの食品摂取状況も調査した。焼きイカを毎週に食べるようになって、超音波で卵巣子宮内膜症性嚢胞を確認できなくなった例もあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
花粉症と内膜症と妊娠の関連性に関して、当院で3年8ヶ月間に腹腔鏡下子宮内膜症性卵巣嚢胞摘出術を行った挙児希望例 45例に対して妊娠群(23例)と非妊娠群(18例)の患者背景・ホルモン値・治療内容・妊娠までの期間などについて後方視的に比較検討した。挙児希望例や不妊症例が腹腔鏡下手術後に一般不妊治療までを行って妊娠した群は、①平均年齢29歳と有意に若く、不妊歴が短く、②47.8% と花粉症例が有意に多かったが、③自然妊娠は術後平均15.5ヶ月に至るが、花粉症にエピナスチンを内服した例は6例と少ないものの、投与後、平均2.7ヶ月と早期に妊娠する傾向があった。また、昨年度の動画撮影と蛍光撮影が可能な顕微鏡を購入させて頂き、手術を行った症例で許可が得られた患者さんの臨床検体すなわち子宮内膜症組織・腹水を用いて、逆流内膜の貪食の観察を継続して行った。レンズが弱拡で見にくいという問題点があったために本年度は強拡大のレンズを購入させて頂き、現象がより明確になりつつある。プロゲステロンによるアポトーシス抵抗性の原因として病変のプロゲステロン受容体発現に問題があると考え、病変においても少ないながらに月経周期性があることも確認した。3EPに関しては、我々と共同研究している他施設で患者さんの同意を得て3EPの局所投与が行われ、腟内膜症が自然軽快したり、卵巣チョコレート嚢胞が縮小したり、不妊症例で妊娠したりした例が提示されて3EPが内膜症に直接作用を有することが示唆されたという報告がなされてきたが、統計学的な報告がなされていなかったために後方視的にカルテの分析を進めている。また、当院で内膜症性嚢胞が自然縮小した症例で3EPが多く含む食品(主に焼きイカ)を摂取している例がいた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、臨床データのまとめを行うとともに、臨床検体におけるCD44とアポトーシス関連物質とアレルギー関連物質についても調べる。蛍光顕微鏡による蛋白質発現解析に加え、real time PCR器機によるmRNAの発現解析も予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
物質の発現解析方法としてreal time PCR器機を購入した。これによるmRNAの発現解析の予算を最終年に残している。
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次年度使用額の使用計画 |
物質の発現解析方法としてreal time PCR器機を購入した。これによるmRNAの発現解析も予定している。臨床検体すなわち子宮内膜症組織・腹水を用いて、逆流内膜の貪食の観察を強拡大のレンズにて観察する。
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