研究実績の概要 |
子宮内膜症(以下、内膜症)患者においては、腹腔内に逆流した子宮内膜も生着した内膜症の病変もプロゲステロンによるアポトーシス誘導に抵抗性を示すとされる。一方、卵巣チョコレート嚢胞を有する不妊症患者は自然妊娠を期待して嚢胞病変摘出術を受けるが、術後、何らかの形で病変の一部は残存し、やはりアポトーシス誘導に抵抗性を示して炎症、不妊や再発の原因になると考えられる。今回の我々の調査では、術後268名に関する多因子分析の結果から、腫瘍径、両側性、CA125値、術後薬物療法の有無などに有意差は認められなかったが、花粉症合併症例の方だけが有意に4.26倍 術後再発が多いという結果が得られた(95%信頼区間;2.077-8.747)。術後患者における花粉症合併は32,5%と一般的な罹患率と変わりなかった。花粉症合併有無の判断は患者の自己申告により、血清IgE値を補助診断として用いた。また、術後に妊娠希望であった119名の調査から自然妊娠までは平均15ケ月間要したが、患者さんが花粉症合併でエピナスチンなどの花粉症薬を使用した場合は平均2.7ケ月で自然妊娠に至っていた。また多因子分析の結果から手術時年齢と花粉症合併有無だけが術後自然妊娠関与し、花粉症合併症例の方は有意に3.997倍 術後自然妊娠が多いという結果になった(95%信頼区間;1.065-15.007)。つまり、卵巣チョコレート嚢胞の花粉症合併例では、術後再発のハイリスクになるが、術後妊娠に関しては花粉症薬のためか早期自然妊娠しやすいと判断された。事実、直径2cmくらいの再発は認めたが、そのまま妊娠できたという例が多く見られた。現在、本結果を踏まえて当院の子宮内膜症の術式を検証して、花粉症患者に限らずに術後再発せずに自然妊娠しやすい術式を開発中である。病変のアポトーシス抵抗性からの解放についても今後続けて検討していきたい。
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