我々は培養脂肪細胞を用いて、エストロゲン(E2)が抗酸化酵素遺伝子群のHO-1:heme oxygenase、NQO-1:quinine oxidoreductase-1、GCL:glutamate-cysteine ligaseの各遺伝子mRNA発現を有意に増加させることを明らかにした。これらは転写因子であるNrf2 (nuclear factor erythroid factor 2)により活性化される遺伝子群であり、脂肪細胞におけるE2の抗酸化作用にはNrf2酸化ストレス応答系が関する可能性が考えられた。 次に我々はE2によるこれらのROS消去系酵素産生誘導が、エストロゲン受容体(ER)を介しているのかを明らかにすることにした。ERのアンタゴニストであるICI182780を用いて実験を行った。その結果、E2による脂肪細胞内のROS産生抑制作用をICIでは抑制できないことが明らかになった。 ERには古くからその存在が知られているERと、小胞体膜上に存在するG protein-coupled estrogen receptor (GPER)がある。ICIはERに対してはantagonisticに作用するが、GPERに対してはagonisticに作用する。今回我々の実験でE2の抗酸化作用をICIで解除できなかったのは、脂肪細胞中に存在するGPERを介しICIが抗酸化作用を示したためではないかと考えた。そこで3T3-L1細胞から分化誘導した脂肪細胞中にGPERが存在していることを確認した後、GPERの選択的アンタゴニストであるG15を使用し、E2の抗酸化作用がGPERを介しているか否かを検討した。実験の結果、G15はE2によるHO-1 mRNA発現促進を阻止できないことが明らかになった。G15存在下であってもE2によるHO-1 mRNA発現増加が見られたことから、3T3-L1においてE2の抗酸化作用はERを介していることが強く示唆された。しかし、今回の研究ではGPERの関与については解明することは出来なかった。今後ERをノックダウンした研究が必要であると考えている。
|