研究課題
本研究は、生体の酸化ストレス防御システムにおいて中心的な役割を果たす転写因子Nrf2およびその調節因子Keap1が、卵巣における酸化ストレス経路を介してヒト卵巣顆粒膜細胞の細胞増殖、ステロイド分泌の制御をどのように調節しているかを明らかにするものである。平成27年度は、主にヒト卵巣顆粒膜細胞の初代培養系を用いて、ヒト卵巣顆粒膜細胞でのNrf2およびKeap1による酸化ストレス制御機構を検討し以下の点を明らかにし、Nrf2がヒト顆粒膜細胞において機能的であることを証明している。1) ヒト卵巣の病理組織切片を用いて免疫組織化学染色法にてNrf2の発現を検討したところ顆粒膜細胞にNrf2が存在することを示した。また卵巣顆粒膜細胞初代培養系を用いて、内在性Nrf2をsiRNA法によりノックダウンすると、代表的な抗酸化ストレス因子であるSOD1とCatalaseの発現が同時に減少することが判明した。2) Nrf2をsiRNA法によりノックダウンしても細胞数は減少していなかったため、Nrf2は短期的な細胞増殖状態には影響しないことを明らかにした。3)ヒト卵巣の組織切片を用いて免疫組織化学染色法にてNrf2とKeap1の発現を検討したところ、卵巣顆粒膜細胞において両者が発現していることが明らかとなった。4)Nrf2の細胞内ステロイド合成および増殖分化に対する影響を検証している。現在までのところ、細胞内のコレステロールトランスポートに重要なStARがNrf2の発現状態と一致しているため、Nrf2による遺伝子的発現制御の可能性を考えている。
2: おおむね順調に進展している
① Nrf2およびKeap1がヒト初代顆粒膜細胞での性ステロイド合成(エストロゲンおよびプロゲステロン)にいかに関与しているかどうか調べる。またNrf2を活性化する試薬もあるため、その効果も検討する。② ヒト卵巣で、様々な段階の発育卵胞および黄体でのNrf2およびKeap1の発現の発現パターンを解析する。③ 体外受精を行う患者における、顆粒膜細胞のNrf2発現量と血中および卵胞液中の性ステロイド濃度の相関を調べる。といった予定を立てていたため、アッセイの内容、結果を加味すると予定通りの進捗である。
Nrf2の細胞内ステロイド合成および増殖分化に対する影響を明らかにすることが目標である。細胞内のコレステロールトランスポートに重要なStARがNrf2の発現状態と一致しているため、StARの発現を制御するプロモーター領域にNrf2が結合する可能性が考えられるため、レポーターアッセイ、ChIPアッセイなどの、Nrf2が転写因子として作用するメカニズムについての検討を進めている。これらが明らかになると、Nrf2の活性を促進する試薬がヒト卵胞の維持に有用である可能性が示唆される。多発性硬化症の治療に用いられているBG-12がNrf2発現を促進することから、この試薬お有用性も検討課題となってくる。
当初予定よりは、担当者の実験進捗が予定よりは捗っていないことが主な理由である。実験実務を担当しているものは、分子生物学的実験の未経験者であり、手技を教えるべき同僚もいなかったことから実験の手技や条件設定にやや難航したことが主たる理由である。
本研究を担当する者が分子細胞生物学的手技に習熟してきたこと、条件設定などの手法に習熟してきたことや、実験実務を担当する者が増員されたことも有り、今年度は予定通り消費する。
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