研究実績の概要 |
本研究は、更年期症状の中でも頻度が高く、かつ身体・心理・社会的負担が最も大きい症状の一つでありながら、その発症機構が完全には解明されていない更年期うつ症状に関する研究である。 (1)われわれはまず、更年期女性の様々な身体的・精神的症状および背景因子に関する横断的多変量解析によって、尿中酸化ストレスマーカー濃度と独立に関連する因子がうつ症状の重症度のみであることを世界で初めて見出した(Hirose, Terauchi, et al. BioPsychoSocial Medicine 10:12, 2016)。 (2)上記の知見に基づき、われわれは酸化ストレスが更年期うつ症状発症に対する主要な寄与因子であるという仮説に立ち、実験動物を用いた研究を行った。閉経女性のモデルとしてICRマウスの卵巣を9週令で摘出し、2週間後に強制水泳試験によりうつ病様行動を評価するとともに、血液中の酸化ストレスマーカーdROMsおよび抗酸化力マーカーBAPにより評価した酸化ストレス状態との関連性について検討した。また、うつ病の発症に関連する血清マーカーであるthiol、HSP70、MDA、corticosterone等の変動についても検討した。その結果、卵巣摘出により強制水泳試験により評価されるうつ病様行動が増加すること、すなわちうつ症状が重症化することを確認したが、一方でこれらの症状の変化と酸化ストレスマーカー・抗酸化力・うつ病血清マーカーの変化とは単純には相関していなかった。われわれは当初の仮説を棄却し、拘束を加えることにより増加する外的ストレスが、卵巣摘出に伴ううつ病様行動・酸化ストレスマーカー・うつ病血清マーカーの変動に影響を与えるか否かの検討を現在行っている。
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