研究課題/領域番号 |
15K10720
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
佐藤 俊 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10534604)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 子宮筋腫 / マスター遺伝子 / 異種移植 / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
本研究では,子宮平滑筋細胞において,エピジェネティクス変異により発現の変化したマスター遺伝子が下流の遺伝子の発現を変化させることで子宮筋腫が発生するという仮説のもとにマスター遺伝子の特定を目指す。これまでにゲノムワイドなDNAメチル化解析,mRNA発現解析および相互的ネットワーク解析による統合的解析によりマスター遺伝子候補を抽出した。従来の培養系では,平滑筋細胞が筋腫細胞に変化しても評価する基準がないため,遺伝子の機能解析が困難であった。そこで,候補遺伝子の発現改変平滑筋細胞株を用いた異種移植により,実際にin vivoで筋腫を形成させることで子宮筋腫の発生に関わる分子を特定する。また,特定した遺伝子の発現改変細胞株における網羅的なmRNA発現解析でその分子機構を解明する。 平成27年度は,マスター候補遺伝子として抽出したNRG1,EPAS1およびNR3C1のそれぞれの発現を改変した平滑筋細胞株を作成した。また,異種移植の条件検討を行ったところ,この細胞株がヌードマウスでは生着しなかったことから,SCID等の重度免疫不全マウスの使用を検討する必要が生じた。 平成28年度には,作製した細胞株の遺伝子発現の変化をウェスタンブロットにてタンパクレベルで確認したところ,EPAS1およびNR3C1改変細胞株で発現改変がうまくいっていないことが分かった。そこで再度,候補遺伝子の抽出を行い,新たにSATB2遺伝子を選出した。これまでに,SATB2およびNRG1のそれぞれの遺伝子発現を改変した細胞株,両方の遺伝子の発現を同時に改変した細胞株を得ている。また,これらの細胞株における網羅的な遺伝子発現をマイクロアレイで調べ,それぞれの細胞株で発現変化する遺伝子群を抽出している。それらの遺伝子群には正常筋層と子宮筋腫で遺伝子発現を比較した際に,子宮筋腫特異的に発現変化する遺伝子が複数含まれていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度には,3つのマスター遺伝子候補として,子宮筋腫で高発現したNRG1と筋腫で低発現だったEPAS1およびNR3C1を選出して,NRG1の過剰発現,EPAS1およびNR3C1をノックダウンした細胞株を作成した。しかしながら,EPAS1およびNR3C1の発現改変細胞株では,ノックダウンの技術的な問題により,それぞれの遺伝子がタンパクレベルで減少していないことが分かった。そこで,平成28年度はノックダウンの系を諦め,子宮筋腫で高発現するマスター遺伝子候補を上述のデータをもとに異なるネットワーク解析で選出し直した。その結果,マスター遺伝子候補として,既に抽出していたNRG1遺伝子に加え,新たにSATB2遺伝子が抽出された。現在までに,多症例の子宮筋腫検体を用いた解析により,NRG1およびSATB2の遺伝子発現およびDNAメチル化変異が子宮筋腫特異的に生じていることを確認している。また,それぞれの遺伝子を過剰発現した細胞株および両方の遺伝子を同時に過剰発現した細胞株を得ている。 発現改変細胞株をマウス腎被膜下に移植する異種移植系については,平成27年度の結果から,ヌードマウスにこの細胞株は生着せず,SCID等の重度免疫不全マウスを検討する必要が生じていた。しかしながら,移植の方針として,NRG1およびSATB2を同時に過剰発現した細胞株を使用することにしており,その細胞株の樹立が最近までかかったため,異種移植系の検討は進んでいない。 一方で,SATB2およびNRG1のそれぞれの遺伝子発現を改変した細胞株におけるマイクロアレイを用いた網羅的なmRNA発現解析を既に進めている。これらの細胞株で発現変化する626および566遺伝子をそれぞれ抽出している。抽出した遺伝子群についてパスウェイ解析等を行い,遺伝子改変により発現に影響を受ける遺伝子経路およびそれらの機能を特定する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は以下の3項目について研究を進める。 1. マスター遺伝子候補を改変した細胞株の作成:マスター遺伝子候補として抽出したNRG1およびSATB2のそれぞれを過剰発現した細胞株および両方の遺伝子を同時に過剰発現した細胞株を作製した。作製した細胞株について,それぞれの遺伝子がmRNAレベルでは過剰発現していることを確認した。今後,これらの細胞株における過剰発現をウェスタンブロットによりタンパクレベルで確認する。 2. 発現改変細胞株をマウス腎被膜下に移植する異種移植:移植細胞としてNRG1およびSATB2を同時に過剰発現した細胞株を使用する。この細胞株をSCIDあるいは他の重度免疫不全マウスの腎被膜下への移植し,移植8週間後に移植腎臓を回収し,移植細胞の生着および腫瘤形成を調べる。腫瘤形成が認められた場合,腫瘤を回収し,分子生物学的および免疫組織学的に発現改変遺伝子および子宮筋腫特異的な分子の発現を調べる。 3. 特定した遺伝子の作用機序の検証:これまでに,SATB2およびNRG1のそれぞれの遺伝子発現を改変した細胞株における網羅的なmRNA発現解析をおこない,発現変化した626および566遺伝子を抽出している。抽出した遺伝子についてパスウェイ解析等を行い,得られた遺伝子経路およびその経路に含まれる遺伝子を,正常筋層と子宮筋腫の比較をもとにした子宮筋腫特異的に発現変化する遺伝子経路および遺伝子群と照合し,SATB2およびNRG1により制御されている遺伝子群を特定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に設備備品で購入予定だった蛍光実体顕微鏡ライカマイクロシテムズ・MZ10F I-T(150万円)を購入しなかったため,次年度使用額91万円が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
重度免疫不全マウスの購入・飼育費,マイクロアレイ受注,ウイルスベクター関連試薬および成果発表の旅費等に使用する。
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