研究実績の概要 |
子宮筋腫組織の初期培養系を使用した実験で,erythropoietin (EPO)の発現はMED12野生型の筋腫に限りエストロゲンにより誘導されるが,低酸素の影響はほとんど受けていないことを明らかにした.MED12変異型の筋腫は野生型の筋腫に比較してサイズが小さくエストロゲンの影響を受けにくいこと,一般的に筋腫は常に腫瘍内が低酸素状態にあるために低酸素によるHIFタンパクの発現が調節が起こりにくいなどの先行報告の内容に一致した所見であった.したがってMED12野生型の筋腫の一部ではエストロゲンが何らかの機序によりエリスロポエチン分泌を促し,おそらく血管増生や血管成熟を介して腫瘍の増大に寄与していると考えられる.MED12野生型筋腫におけるEPO発現の分子遺伝学背景とEPOの機能を解析すべく,現在,EPOを分泌するMED12野生型の筋腫とEPOを分泌しないMED12野生型筋腫におけるmRNA発現様式の差異について,マイクロアレイ法を用いて網羅的に検索中である. 我々の研究はこれまでに認識されていなかった, 巨大に増大しうる筋腫のサブタイプが存在することを提示した.これまでは子宮筋腫は単独の疾患と認識されてきたが,実際にはその性質や振る舞いには多様性があり,その多様性を理解することは患者ごとに適切な治療戦略を計画するために必要不可欠であり,今後臨床的に応用しうる重要な知見を示したものと考えている. 同時に,MED12野生型でそれぞれEPO高発現,低い発現の筋腫細胞の不死化を行なった.今後はこれらの細胞株を用いて,筋腫細胞におけるEPOの作用を検証する予定である.
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