atypical protein kinase C (aPKC)は,細胞極性制御因子であるとともにがん遺伝子であることも示唆されており,複数の癌腫においてaPKCの異常発現は予後不良因子であることが報告されている.本研究ではaPKCの発現様式と子宮頸癌予後および子宮頸部扁平上皮内病変(SIL)の進展リスクの関連を検証するとともに,これら病変におけるaPKCの機能について分子生物学的に解析した. 免疫組織学的に解析するとSIL病変のグレードが浸潤癌に近づくほどaPKCは過剰発現し,正常細胞では細胞膜・細胞質に存在するaPKCタンパクが,核に偏在していた.またaPKCが核局在している軽度SIL(LSIL)では,細胞質に局在しているLSILに比較して有意に高度SIL(HSIL)へ進展した.さらに浸潤子宮頸癌の症例においても,病期が進行した群ほどaPKCの異常発現が認められ,同じ病期においてもaPKC異常発現群では正常発現群に比して予後不良であった.そのためaPKCの発現異常亢進または細胞内局在異常(核局在)は癌の発生と進展に関与している可能性が考えられた. 子宮頸癌細胞株HelaでaPKC遺伝子ノックダウン,核局在aPKCの強制発現などの手法を用いて異常発現aPKCが子宮頸癌細胞におよぼす影響を検証したところ,aPKC核局在細胞では浸潤能力の増強が認められた.現在この現象に関わる分子について探索・検証中である. aPKCの異常発現,とくに核局在は子宮頸部扁平上皮病変の癌化と進展に影響を与えている可能性が示唆された.これまでにがん細胞における核局在aPKCの作用に関する知見はなく,aPKCの多様な機能についての重要な情報であるとともに,aPKCがSIL進展のバイオマーカー,子宮頸癌の治療標的として利用できる可能性が示された.
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