研究課題/領域番号 |
15K10730
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
冨永 英一郎 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (80276328)
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研究分担者 |
赤羽 智子 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (40398699)
平沢 晃 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (90296658)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 卵巣癌 |
研究実績の概要 |
近年、ヒトでの安全性と体内動態が既に確認されている既存薬から新たな多疾患に奏効する薬剤を見つけるいわゆるドラッグリポジショニングが注目されている。ドラッグリポジショニングの利点として、新薬開発に比較し薬剤が原因となって発症する予期せぬ副作用が出現する確率が低いこと、新薬開発に比較し、臨床試験にかかる時間とコストを大幅に削減できるなどの利点がある。 卵巣癌は婦人科腫瘍の中でも最も予後が短期であり、進行期で発見される症例が少なくないことから個別化治療法の確立が望まれるが、現在実施されている分子標的治療薬はベバシズマブが適応承認を得ているのみである。その理由として卵巣癌の分子機構が十分に解明されていないこと、罹患率が他癌と比較して低いために企業が採算性を考慮して積極的に開発や臨床試験を行わないなどの理由が考えられる。このような背景から難治性卵巣癌の個性診断に基づいた個別化治療パイプラインの創出は喫緊の課題である。しかし商業化ベースで取り扱われている細胞を用いた基礎実験はvivo実験に応用すると生体内では異なる結果を示すことが少なくない。 そこで本研究において卵巣癌症例に対する腹水検体を使用した個別化治療法の確立を目的とし、患者由来腹水検体より安定した腫瘍細胞の樹立手技の確立を行った。患者同意のもと、腹水細胞を採取し細胞成分を遠沈法にて集細胞後、培養液中に浮遊させ3日間静置後培地交換を行った。その結果、腫瘍細胞が持つ本来の性質である細胞増殖能の高い細胞のみが培養液中に生き残った。さらに複数回の培地交換の後、単クローン性に増殖する細胞集塊を継代培養することで細胞樹立に成功した。 本研究内で確立した細胞樹立手技は遺伝子操作や不死化などの操作を行っておらず患者本来の腫瘍組織の性質を残した臨床検体に近い細胞であると推測され、本細胞を用いた薬剤感受性の結果は個別化治療法へと応用可能であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は申請時に株細胞の樹立手技を確立する予定とし予算配分を少額にしている。以降は抗がん剤等の薬剤等を購入した研究実施を予定して計画を行っていることから、研究内容や手技の確立等、研究全体の進捗状況においても計画通りに遂行され、本年度の実施目標は達成できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は樹立した卵巣癌由来の腫瘍細胞株を使用した薬剤感受性試験の実施を計画している。樹立細胞株は、腹膜中皮腫および遺伝性腫瘍が疑われる症例の卵巣癌細胞株が樹立されているが、現在進行中の症例もあり、実施数は増加する予定である。卵巣癌とは症例は異なるが、腹膜中皮腫はもともと発症する症例が少ないうえ、奏功する治療法も少ないことから本研究内にて腹膜中皮腫についても薬剤感受性の検討を実施することで有用な治療薬の選択が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は細胞株樹立のみの実施計画であったため、細胞培養関連消耗品への使用と染色体解析のみを行った。研究実施の際、細胞培養消耗品を節約したため金額に残りが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は樹立した培養細胞株と患者腹水より採取した細胞を使用し、薬剤感受性試験を実施する。薬剤(抗がん剤)の単価は高額であるため、前年度の残金は薬剤購入に使用する予定である。
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