研究課題
本研究では、卵巣明細胞腺癌(OCCC)に高発現するHNF-1β による免疫抑制的・がん細胞進展促進的ながん微小環境を、臨床検体サンプルを用いて検討し、新しい診断・治療法の開発基盤を構築することを目指す。2004~2011年のステージI-II手術検体41例を用いてCD3,CD4,CD8,FOXP3免疫組織染色し画像解析ソフトを用いて定量的解析行い予後との関連を検討した。その結果、CD4、CD3、CD8陽性細胞間には強い相関が認められた。またMann-Whitney U test、Kaplan-Meier analysisでもCD3、CD4、CD8高値は予後良好、FOXP3高値は予後不良の傾向を認めたがいずれも有意では無かった。またNFB、IL6陽性細胞の染色状態は病理医によるスコアリングを行い、陽性細胞が多いと予後不良の傾向を認めたが同様に有意では無かった。これら腫瘍内浸潤リンパ球数は大腸がん、非小細胞肺がん、子宮頚がんにと比較すると圧倒的に低値であり、OCCCでは他の癌種と異なり初期のステージでもIL6高値で強い免疫抑制環境が既に構築されていることを反映しているとためと考えられた。昨年までの解析からOCCCにおいてHNF-1βを抑制すると、NF-kBやSTAT3の活性が抑制されることによりIL-6の産生が抑制され、さらにDCが活性化されT細胞刺激能も増強することがin vivoにおいても示された。したがって、HNF-1βはOCCCの癌免疫抑制環境に関与するとともに、それを解除する標的分子となる可能性が示された。そこでOCCC細胞株を用いてIL6を指標にしてdrug repositioningによるスクリーニング系を確立し、現在スクリーニングを行っており、IL6分泌を抑制する数種の候補分子の存在を確認した。
2: おおむね順調に進展している
OCCC臨床検体サンプルを用いて検討し、新しい診断・治療法の開発基盤を構築することを目指すことを計画した。研究実績で明らかにしたようにOCCCでは明らかに腫瘍浸潤リンパ球が少なく、網羅的な遺伝子発現法により浸潤リンパ球関連遺伝子発現を指標として特異的遺伝子発現との関連による解析法は浸潤リンパ球関連遺伝子発現が低いかとが予想され、他の癌種と同様な解析法は困難な可能性が示された。そこでHNF1昂進により下流で高発現しているIL6を指標としてdrug repositioningを行いそこからNHF1発現を制御する標的分子を同定し、逆にHNF1の発現を調べることによりその調節機構を明らかにする。現在、OCCC細胞株を用いIL6を指標としたスクリーニング系を確立し、既存薬ライブラリーからのスクリーニングを行っている。これまでに数種の薬剤がIL6産生を抑制することを確認している。以上、ほぼ順調に進捗している。
HNF-1β昂進により下流で高発現しているIL6を指標としてdrug repositioningによるスクリーニングを継続し、標的分子の解析を行う。これら薬剤とHNF1の発現との関連を調べ免疫環境改善標的の可能性を検討する。また臨床検体の収集を継続する。収集した臨床検体を用いて標的分子の発現を免疫染色やRT-PCRを用いて測定し、IL6との関連を検証する。臨床情報との関係を解析しこれら標的分子がHNF-1βによる免疫抑制病態の指標となり得るバイオマーカーになり得るかを検討する。上記in vitro実験、マウスモデルin vivo実験(必要に応じて実施)、HNF-1β発現による免疫抑制環境のバイオマーカー、臨床検体を用いた解析結果を総合して、卵巣明細胞腺癌に対する新しい治療法開発の可能性を検討する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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