研究課題/領域番号 |
15K10740
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
森 清一郎 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, 主任研究官 (80342898)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | HPVワクチン / 交叉性中和抗体 / キメラ抗体 / AAVベクター |
研究実績の概要 |
ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染予防にワクチンが導入されているが、子宮頸癌の原因となる15の型のうち2つの型のみを対象としている。本研究は、発癌性HPVに共通する交叉性中和エピトープや、それを認識する交叉性中和抗体を利用して、幅広い型のHPVに有効な次世代ワクチンを開発することを目的とする。 これまでに、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて生体内で交叉性中和抗体を長期間、安定して発現させることによりHPVの感染を防ぐ受動免疫ワクチンの開発を行なった。交叉性中和抗体として、HPVのキャプシドタンパク質L2にあるエピトープを認識し、少なくとも8つの発癌性HPVを中和できるマウスモノクローナル抗体を利用した。ヒトでの使用を念頭に、マウスモノクローナル抗体の可変領域とヒトIgG定常領域を融合したマウス/ヒトキメラ抗体を発現する人工遺伝子を作成した。遺伝子導入したヒト細胞株の培養上清から分離精製したキメラ抗体の各発癌性HPVに対するin vitroでの中和活性は、もとのマウス抗体に比べ10~60倍高かった。キメラ抗体を発現するAAVベクターを作製し、マウス骨格筋に接種後、経時的に血中のキメラ抗体濃度を測定した。接種6週後に抗体濃度は平均約200 ug/mlに達し、その後徐々に低下したが、50週後においても平均約35 ug/mlのキメラ抗体が検出された。マウス体内で発現したキメラ抗体のin vitroでの中和活性は、もとのマウス抗体と同レベルであったことから、抗体を発現させる細胞の違いが中和活性に影響することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作製したキメラ抗体が中和活性と交叉性を維持していることが確認できた。また、キメラ抗体発現AAVベクターを接種したマウスで、期待された濃度のキメラ抗体が血中に分泌され、少なくとも1年間発現が持続していることが確認できた。発現する細胞によって抗体の中和活性が異なるという予期しない結果が得られたため、その理由を調べている。受動免疫ワクチンの開発は計画より多少早く進んでいる。その分、粘膜ワクチンの開発が遅れているが、全体としては概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
AAVベクター接種後1年以上経過する来年度まで血中のキメラ抗体濃度を経時的に測定し、発現の持続性を調べる。レポーター遺伝子を持つHPVキャプシドを経膣接種し、膣粘膜上皮でのレポーターの発現を測定することにより、in vivoでの感染防御効果を調べる。発現する細胞によりキメラ抗体の中和活性が異なる理由を明らかにし、その情報等をもとにより有効な抗HPV交叉性中和抗体発現ベクターの開発を目指す。HPV L2の交叉性中和エピトープとAAV中空粒子を利用した粘膜ワクチンの開発も進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末納品等にかかる支払いが平成29年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成28年度分についてはほぼ使用済みである。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のとおり。
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