研究課題
現行のヒトパピローマウイルス(HPV)感染予防ワクチンは、子宮頸癌の原因となる15の型の発癌性HPVうち2つの型を対象としている。我々が分離した抗HPVモノクローナル抗体は、少なくとも8つの発癌性HPVを中和できる。本研究では、この広域中和抗体を、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて生体内で長期間、安定して発現させて幅広い型のHPV感染を防ぐ、受動免疫ワクチンの開発を行なった。ヒトでの使用を念頭に、マウス由来の広域中和抗体の可変領域とヒトIgG定常領域を融合したマウス/ヒトキメラ抗体を発現する遺伝子を合成した。このキメラ抗体遺伝子をパッケージしたAAVベクターを作成し、マウス骨格筋に接種後、経時的に血清中のキメラ抗体濃度を測定した。接種6週後に抗体濃度は平均約200 ug/mlに達し、その後徐々に低下したが、62週後においても平均約20 ug/mlのキメラ抗体が検出された。さらに、ベクター接種62週後、経膣接種したHPV16、18、58型偽ウイルスに対する感染防御効果が認められた。遺伝子導入したヒト細胞株の培養上清から分離精製したキメラ抗体の各発癌性HPVに対するin vitroの中和活性は、ハイブリドーマ由来のマウス抗体に比べ10~60倍高かった。AAVベクターを接種したマウスの血清中のキメラ抗体のin vitroでの中和活性は、もとのマウス抗体と同レベルであったことから、発現する細胞によって広域中和抗体の中和活性が異なることが考えられた。マウス抗体をグリコシダーゼ処理すると中和活性が約10倍上昇したことから、マウス細胞で抗体が産生される際に付加される糖鎖が中和活性を阻害することが示唆された。
3: やや遅れている
AAVベクターのマウス骨格筋への1回の接種で、1年以上にわたって血中に広域中和抗体が分泌されることがわかった。また、AAVベクターを接種したマウスで、複数の型の発癌性HPVに対する感染防御効果が認められた。従って、受動免疫ワクチンの開発については順調に進んでいる。しかし、発現させる細胞によって広域中和抗体の中和活性が顕著に異なるという予期しない結果が得られた。その原因を調べるのに時間を要したため、当初の予定より多少遅れており、研究期間の延長を申請した。
ヒト細胞株で発現させた広域中和抗体は、マウス細胞で発現させた同抗体よりもin vitroでの中和活性が高かったことから、キメラ抗体発現AAVをヒトに接種した場合、マウスに接種した場合よりも高い感染防御効果が期待される。ヒトでのHPV感染防御に必要なキメラ抗体の血中濃度を推測するため、ヒト細胞株で発現させたキメラ抗体をマウスに投与し、その後、発癌性HPVに対する感染防御効果を調べる。キメラ抗体の投与量とマウスの循環血液量から、感染防御に必要なキメラ抗体の大まかな血中濃度を算出する。また、広域中和抗体への糖鎖の付加が中和活性を阻害することがわかったので、糖鎖が結合するアミノ酸残基などの詳細を調べ、より有効な広域中和抗体への改変を目指す。
(理由)年度末納品等にかかる支払いが平成30年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成29年度分についてはほぼ使用済みである。(使用計画)上記のとおり。
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Journal of Virology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1128/JVI.00017-18
Infectious Agents and Cancer
巻: 12 ページ: 44
10.1186/s13027-017-0155-4