研究課題/領域番号 |
15K10748
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大西 弘恵 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (50397634)
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研究分担者 |
北尻 真一郎 信州大学, 医学部, 特任講師 (00532970) [辞退]
中川 隆之 京都大学, 医学研究科, 講師 (50335270)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 疾患特異的iPS細胞 / 神経分化誘導 / 聴神経 / 内耳感覚上皮組織培養 / 色素性乾皮症 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究計画は、過去の年度に引き続き①「ヒトiPS細胞から聴神経への分化誘導法の検討」を行った。さらにそれと並行して、前年度までの検討で確立されている分化誘導法による聴神経モデルを用いた②「聴神経変性モデルの作出」及び③「リバータントの作製」とを行い以下の結果を得た。 ① より高効率で高品質な聴神経の分化誘導法の確立を目指し検討を重ねた。昨年度誘導効率の向上に成功したので、再現実験を重ねて安定性の検討を行うとともに、本年度はこれらヒトiPS細胞由来内耳前駆細胞の品質の検討を行った。RT-PCRや免疫染色を行った結果、RNA, タンパク質レベルで、PZX2, PAX8, SIX1等、複数の内耳前駆細胞マーカーの発現が確認された。さらに前駆細胞以降の分化誘導も複数回行った。その結果、神経細胞への分化が確認された。 ② 以前に確立したヒトiPS細胞からグルタミン作動性神経への分化誘導法を用い、正常及びXPA患者由来iPS細胞からグルタミン作動性神経を誘導し、低酸素などの条件下で培養し、細胞死の起こる条件を検討したが、差は見られなかった。また神経細胞への分化、細胞増殖に大きな差は見られなかった。 ③ 患者由来iPS細胞に正常型のXPA遺伝子を恒常的に発現させたコントロール株の作製を行う。XPAは常染色体劣性遺伝疾患であるため、正常型の発現が見られれば病態の改善が見込まれる。そこで、疾患細胞のコントロール細胞として、XPA遺伝子を恒常的に発現するXPA患者由来iPS細胞の作製を進めている。まず予備検討として、iPS細胞ゲノム上にGFP遺伝子を挿入し恒常的に発現させた株の作製を試みた。一過的な遺伝子発現は確認でき、現在遺伝子挿入株のスクリーニングを行っている。XPA遺伝子の挿入に関してはベクターの構築を終えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究を行うために、産業技術総合研究所からXPA患者由来iPS細胞を供与いただく必要があったが、想定外に時間を要し2015年の12月にようやく細胞を入手した。それに伴い研究計画が大幅に遅れたため、①「聴神経への分化誘導法の改良」を引き続き行い、②「聴神経変性モデルの作出」とび③「コントロール株の作製」を行った。 ①では内耳前駆細胞の品質確認を終え、内耳有毛細胞マーカーであるPAX2, PAX8, SIX1, EYA1等の発現をRNAもしくはタンパク質レベルで確認できた。さらにその後の分化誘導で神経細胞への分化も確認できた。 ②では正常人由来細胞とXPA患者由来細胞で細胞の生存、増殖率に差のある条件が見つからなかった。 ③ XPAは常染色体劣性遺伝であるため、正常なXPA遺伝子が発現していれば発症しないはずである。そこで染色体上で他の遺伝子発現に影響を及ぼさない位置にXPA遺伝子を恒常的に発現するようなプロモーター下で発現させるシステムの確立を試みた。XPA遺伝子を挿入する為のベクター作製と並行し、予備検討としてGFP発現株の作製を試みている。GFPを発現するコロニーを得ており、PCRによりゲノム上に遺伝子挿入された株のスクリーニングを行っている。
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今後の研究の推進方策 |
XPA患者由来iPS細胞を用いた聴神経変性モデルの作製と、聴神経変性メカニズムの解析を行う。 昨年度と同じくXPA患者由来iPS細胞から高効率に聴神経を誘導できる条件を確立する。誘導された聴神経の評価をマーカーの発現や内耳感覚上皮とのシナプス形成によって行う。また、XPA患者由来細胞の性質を残していることを確認する為、UV 照射やシスプラチン等の薬剤に対する感受性について検討する。この検討のコントロールとして遺伝子異常を修復したリバータントを作成する。 次に脳神経系で産生される主な酸素ラジカルの発生剤などをXPA患者iPS細胞由来神経の培養に様々な濃度とタイミングで添加し、聴神経変性モデルの作出を試みる。リバータントiPS細胞由来神経の培養との結果に差があるものが見つかればそれを神経変性モデルとし、免疫染色法や遺伝子発現解析、タンパク質の挙動などを解析して聴神経変性メカニズムの解析を試みる。同時にこの神経変性モデルを用い、抗酸化物質の添加による効果に関して検討を行う。さらに神経変性モデルを用いて、オリゴヌクレオチドによる治療効果についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を行うために、産業技術総合研究所からXPA患者由来iPS細胞を供与いただく必要があったが、想定外に時間を要した。事前に準備は進めていたものの、審査要件の厳格化など想定外の事象が有りやむを得ないと考えている。それに伴い研究計画がほぼ一年ずつのずれこんだ。聴神経への分化誘導法やリバータントの作製は進んできているので一年延長することで何らかのまとまった成果が得られると考えている。 今年度は引き続き高効率に聴神経を誘導できる条件の確立と、正常遺伝子を挿入したリバータントの作製も行う。脳神経系で産生される主な酸素ラジカルの発生剤などをXPA患者iPS細胞由来神経の培養に様々な濃度とタイミングで添加し、聴神経変性モデルの作出を試みる。リバータントiPS細胞由来神経の培養との結果に差があるものが見つかればそれを神経変性モデルとし、これを解析して聴神経変性メカニズムの解析を試みる。神経変性モデルが作成されれば、抗酸化物質の添加やオリゴヌクレオチドによる治療効果についても検討する。最近、XPAと同じく一塩基修復系で機能する遺伝子を責任遺伝子とし、その欠損により類似の症状を示すコケイン症候群の患者由来神経細胞でIGFシグナル系の調節異常が起きているという報告があったため(AT Vessoni 2016)、IGF1や類似のシグナルについても正常人とXPA患者由来神経で差がないか検討する。
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