研究課題/領域番号 |
15K10749
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 典生 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70378644)
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研究分担者 |
中川 隆之 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (50335270)
坂本 達則 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60425626)
岡野 高之 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60642931)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 支持細胞 / 網羅的遺伝子解析 / Netrin1 |
研究実績の概要 |
1.発生期内耳蝸牛単一細胞からのRNA抽出・増幅 本年度は、胎生期13日目のマウス蝸牛を用いたRNA抽出・増幅を行った。胎生期132日目マウス蝸牛膜迷路を摘出し、天蓋部分を除いたのちにさらにサーモライシンを用いて上皮のみを剖出して、その後トリプシンを用いて単一細胞の状態にした。単一細胞をガラスピペットで拾い上げ、Kurimotoら(2006)によって報告された方法を用いて、RNAを抽出後、cDNAを合成、各遺伝子の量的関係を損なわないようにcDNAの増幅をおこなった。増幅が成功したかどうかはハウスキーピング遺伝子2種類(GapdhとRplp0)に対して半定量的なPCRを施行することで判定する。この結果、増幅の成功率は72%であった。Kurimotoらの報告によると、約60%の成功率であったとのことであるので、我々の単一細胞からの遺伝子増幅手技がオリジナルの手法と同一の効率であることが分かる。これにより、本年度は38個の細胞からのサンプルを得ることができた。これにより、トランスジーンを持った動物を用いずに、つまり、haploisufficiencyの影響を受けずに蝸牛由来の単一細胞からの網羅的遺伝子解析を行う手法を確立できたと考える。 2.IGF1の支持細胞を介した有毛細胞保護メカニズム アミノグリコシド障害後の内耳蝸牛において、IGF1によって発現が上昇しているNetrin1が、内耳蝸牛有毛細胞を保護するかどうかの検討を、新生仔マウス蝸牛器官培養を用いて行った。その結果、Netrin1は、アミノグリコシド投与による障害から有毛細胞を保護することが明らかになった。また、その効果は用量依存的であった。このことから、IGF1による蝸牛有毛細胞保護効果は、Netrin1を介していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は発生期蝸牛由来の単一細胞からmRNA抽出、cDNA増幅を行うことを目標にしていた。本年度は胎生期13日目の蝸牛から単一細胞を摘出して操作を行った。抽出・増幅の成功は、ハウスキーピング遺伝子のプライマーを用いてRT-PCRを行うことによって確認するが、今回は2つの異なる遺伝子について反応を行い、確実に増幅されていることを確認した。この手技のプロトコールは精細な操作を伴うため、習熟に時間がかかることも考えられたが、比較的短期間に手技の確立を行うことができた。それに加えて、通常は成功する確率が60%程度とオリジナルの論文ではされているが、我々の場合は72%の成功率を得られ、目標としていたよりも高効率で手技を施行することができた。また、実験によって得られたサンプルの数は、目標としていた40サンプルとほぼ同数の38サンプルを得ることができた。 IGF1に関するプロジェクトではマウス蝸牛器官培養の実験系で、アミノグリコシドによる有毛細胞障害をIGF1が保護する際に発現が上昇している遺伝子のうち、Netrin1の効果について平成27年度の研究では明らかにすることができた。Gap43については、未だマウスを入手できていないが、Netrin1の有毛細胞保護効果が著明であったので、本年度はその効果のより詳細な検討に研究のリソースをかけていた。このためGap43についてはほとんど検討をしていないが、Gap43については来年度以降に検討を行いたい。 Septin4ノックアウトマウスについては、音響外傷による聴力の変動を検討中である。音響外傷直後は聴力閾値が上昇するが、7日あるいは14日経過した時点では聴力閾値が正常あるいは正常近くに戻る一過性聴力閾値変動を起こすような音響曝露の条件を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
支持細胞発生メカニズムの解明については、サンプル数を全体で70~100までふやした上で、本来解析の対象とすべきSox2陽性細胞(有毛細胞と支持細胞の前駆細胞のマーカー)からのサンプルを同定すべく、Sox2のプライマーで同遺伝子の有無を確認する。Sox2陽性細胞と陰性細胞両方のサンプルを用いて解析を行うこととする。具体的にはマイクロアレイを用いて網羅的遺伝子発現解析を行い、まずはSox2陽性細胞のみに発現している遺伝子を同定する。これは、Sox2陰性細胞に決して発現しておらず、かつSox2陽性細胞に少しでも発現している遺伝子のリストを作成することにより同定する。その後、それらの遺伝子の発現パターンを解析することによって、Sox2陽性細胞をさらに分類することができる遺伝子を同定する。 IGF1のプロジェクトでは、Netrin1とIGF1との関係を明らかにするために以下の実験を施行する。まず、IGF1投与によりNetrin1が、蝸牛内のどの細胞に発現するようになるかをin situ hybridization法によって同定する。また、IGF1によるアミノグリコシドによる有毛細胞保護効果がNetrin1を介しているかどうかを確認するため、IGF1と同時にNetrin1のブロッキング抗体を投与して、IGF1の効果が減弱するかどうかを確認する。Netrin1は分泌タンパク質であり、受容体はCanonicalなものだけでも6種類が同定されている。本研究では、この6種類のうち、どの受容体が蝸牛に発現しているか、また、その受容体が有毛細胞の保護効果に関与しているかを検討する。 音響曝露の条件が確定したら、Septin4ノックアウトマウスに対する音響曝露を順次行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究はおおむね順調に進んでいるが、単一細胞からのmRNA抽出、cDNA増幅は、従来の文献で報告されていた60%よりも高い効率である72%で得ることができた。このため、実験回数を減少させることができ、コストの削減を行うことができた。また、IGF1関係の研究では、Netrin1の研究を中心に行っているが、ノックアウトマウスを使用予定のGap43の研究と比べて、Netrin1の研究は野生型マウスで可能であるため、マウスの維持費分研究費の節約が可能であった。これらの理由から本年度は余剰金を生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次の段階は、網羅的遺伝子発現解析を行うことである。前年度余剰金があるため、サンプル数を増やして解析を行うことができると考える。サンプル数増加により、解析をより詳細なものにすることができるであろう。Netrin1の研究でも、より詳細な解析を行うための抗体などの入手に研究費を割り当てる予定である。
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