研究課題/領域番号 |
15K10749
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 典生 京都大学, 医学研究科, 講師 (70378644)
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研究分担者 |
中川 隆之 京都大学, 医学研究科, 講師 (50335270)
坂本 達則 公益財団法人田附興風会, 医学研究所 第5研究部, 研究員 (60425626)
岡野 高之 京都大学, 医学研究科, 特定病院助教 (60642931)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 支持細胞 / Netrin1 / Unc5B / Sox2 / 単一細胞 |
研究実績の概要 |
1.発生期内耳蝸牛単一細胞からのRNA抽出・増幅 本年度は、昨年度に引き続き、胎生期13日目のマウス蝸牛由来の単一細胞からのRNA抽出・増幅を行いサンプル数を81個に増やした。これらのサンプルに対して、RT-PCRを行い、感覚上皮予定領域のマーカーであるSox2の発現の有無を検定した。その結果、感覚上皮予定領域由来と思われるSox2陽性の細胞からのサンプルは47個とSox2陰性細胞からのサンプルは34個であった。これらを順次マイクロアレイにハイブリダイズして、網羅的な遺伝子発現解析を行っている。 2.IGF1の支持細胞を介した有毛細胞保護メカニズム アミノグリコシド障害後の内耳蝸牛において、IGF1によって発現が上昇しているNetrin1が、内耳蝸牛有毛細胞を保護するメカニズムの検討を行った。まず、IGF1による蝸牛有毛細胞保護の際に、Netrin1がどの細胞から発現しているかを検討した。その結果、アミノグリコシドによって障害を加えてIGF1を投与した際にのみ、Netrin1が支持細胞から発現していることが明らかになった。次に、Netrin1の6種類の受容体すべての新生仔マウス蝸牛における発現部位を検討した。その結果、Unc5Bが蝸牛全長にわたって有毛細胞に発現していることが分かった。さらに、IGF1やNetrin1による蝸牛器官培養の有毛細胞保護効果が、Unc5Bのブロッキング抗体によって阻害されることを示し、IGF1-Netrin1-Unc5Bという経路で有毛細胞が保護されることが明らかになった。IGF1は有毛細胞に直接働くわけではなく、支持細胞からNetrin1を発現させ、そのNetrin1が有毛細胞に働き有毛細胞の保護を行っていると考えられた。また、IGF1投与によるシグナル経路MEK/ERKとPI3K/ACTの両方の活性化を、RT-PCRで証明することができ、Otolory&Neurotology誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は前年度確立したプロトコールにしたがって、胎生期13日目の発生期蝸牛由来の単一細胞からmRNA抽出、cDNA増幅を行いそのサンプル数を増やしていった。その結果昨年度当初に計画した目標通り、ハウスキーピング遺伝子のプライマーを用いてRT-PCRを行って増幅の確認をできた81個の細胞のサンプルを得ることができた。また、これらのサンプルに対して、Sox2の発現の有無を決定することができた。予定通りの数のサンプルに、予定通りの実験を進めることができているため、進捗は極めて順調である。 IGF1に関するプロジェクトではマウス蝸牛器官培養の実験系で、アミノグリコシドによる有毛細胞障害をIGF1が保護する際に発現が上昇している遺伝子のうち、27年度に明らかにしたNetrin1による効果のメカニズムについて平成28年度の研究では明らかにすることができた。当初の予定通り、Netrin1およびその6種類の受容体の発現部位を決定することができただけでなく、内耳保護を担っていると同定することのできたUnc5B受容体のブロッキング抗体により、IGF1やNetrin1の有毛細胞保護効果が減弱することを突き止めることができた。これにより、IGF1-Netrin1-Unc5Bという、有毛細胞保護効果の反応軸を同定することができたということができ、当初の予定以上の成果が上がっている。Gap43については、Netrin1の有毛細胞保護効果のメカニズムの解明を優先したためほとんど実験を行っていない。来年度以降に検討を行いたい。 Septin4ノックアウトマウスについては、引き続き音響外傷による聴力の変動を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
支持細胞発生メカニズムの解明については、全体のサンプル数を81までふやし、本来解析の対象とすべきSox2陽性細胞(有毛細胞と支持細胞の前駆細胞のマーカー)と陰性細胞両方のサンプルを準備することができた。マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析も順次行っており、まずSox2陽性細胞のみに発現している遺伝子を同定する。これは、Sox2陰性細胞に決して発現しておらず、かつSox2陽性細胞に少しでも発現している遺伝子のリストを作成することにより同定する。その後、それらの遺伝子の発現パターンを解析することによって、Sox2陽性細胞をさらに分類することができる遺伝子を同定する。さらに、クラスタリングの手法なども用いて、Sox2陽性細胞の細胞群を、その遺伝子発現パターンによって、いくつかの特徴的なグループに分類し、それぞれのグループに特徴的な遺伝子を同定して、内耳蝸牛有毛細胞発生にメカニズムの解明を行いたい。 IGF1のプロジェクトでは、予想外の進展を認め、蝸牛有毛細胞の保護に関わるIGF1-Netrin1-Unc5Bの反応軸を同定することができた。この2年間で検討していた新生仔マウスだけでなく、成体のマウスにおいてもこのような有毛細胞の保護効果やメカニズムが存在しているかどうかの検定も行っていきたい。具体的には、IGF1受容体、Netrin1やNetrin1受容体の成体蝸牛マウスにおける発現の有無の検討や、Netrin1による成体マウス蝸牛における有毛細胞保護効果の有無を検討していきたい。 音響曝露の条件が確定したら、Septin4ノックアウトマウスに対する音響曝露を順次行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
Septin4ノックアウトマウス解析担当の坂本の分担金が使用されなかったが、これは、Septin4ノックアウトマウスの解析開始前の、音響暴露条件の設定に手間取っているためである。音響暴露装置は申請者の研究室が所有する既存の装置を用いるため、ノックアウトマウスの解析のために研究費を用いることがなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
音響暴露条件の設定を至急に行って、Septin4ノックアウトマウスの解析を開始する予定である。その際に、マウスの組織学的検査などのために研究費を使用する予定である。
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