昨年までに得た結果をさらに詳細に分析し、以下の結果を海外誌に論文として発表した。 蝸牛外側壁の血管条に存在する中間細胞にオプトジェネティクスを利用し、一時的な摂動を与えた(青色光を細胞に照射すると細胞内にNa+が流入する)直後から難聴が生じることが分かった。また、数分間の連続的な摂動(細胞に数分間青色光を当て続ける)によって生じた難聴は、可逆性であることが分かった。今後さらに摂動を与える時間を変えて聴覚への影響を調べるという発展性を残している。 オプトジェネティクスを用いて与えた細胞の摂動はmsの単位で生じる非常に早い変化である。一方、よりゆっくりと中間細胞に摂動を生じるような変化を与えた場合(中間細胞に存在するNa+-K+-2Cl- (略称:NKCC1)チャンネルの発現を数日かけて低下させる)も出生直後の動物において難聴を生じることが分かった。さらに、このチャンネルの発現をNKCC1ノックダウンを起こした同一個体内で再び上昇させ元に戻した場合、高音域の聴力が改善した。しかし、低音域の障害は改善しなかった。この結果は、外側壁の機能障害が可逆性、非可逆性の聴覚障害に関わることを示唆した。また、このNKCC1ノックダウンの影響は、動物の成長と共に聴覚への影響力が変化するような結果も得ており、今後、様々な発生段階でこの摂動が聴覚にどのような影響があるか調べるという発展性を残している。 いずれの結果を見ても、研究者の望み通りのタイミング、時間で可逆性難聴を再現できる動物モデルを確立できたと言える。過去に、これだけ様々なタイムスケールで外側壁細胞の機能障害を再現できた研究はなく、今後、可逆性、非可逆性難聴の病態生理解明に新たな研究分野を開拓したと考えている。
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