研究課題/領域番号 |
15K10762
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
神崎 晶 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (50286556)
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研究分担者 |
藤岡 正人 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70398626)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 内耳 / 薬物動態 |
研究実績の概要 |
背景)感音難聴のほとんどは内耳障害であり難治性である。内耳障害の代表的な疾患である突発性難聴では治療として、ステロイドの全身投与と局所投与が行われている。ところが内耳への薬物動態に関する知見は少ない。その理由として内耳が小さく、内耳に到達している薬物量の測定が難しいことが挙げられる。そこで、本研究ではルシフェリンを。Glial fibril acid protein(GFAP)-lucマウスにさまざまな経路で投与し、ルシフェリンが内耳に到達すると酵素反応が生じることを利用して薬物動態を解析した。GFAP-lucマウスでは、GFAP発現細胞(内耳らせん神経細胞)でルシフェラーゼ酵素が発現している。そのマウスにルシフェリンを投与しルシフェラーゼと酵素反応が生じる。ルシフェリンは臨床で使用している薬物ではないが、このシステムとして生体下で薬物動態を把握できる利点がある。 研究成果)1)局所投与と全身投与(経静脈投与)において内耳薬物動態が異なっていた。局所投与は経静脈投与と比較して内耳に早く到達するが消失も早かった。それぞれに特徴があり、局所と経静脈投与法を併用すると相加効果がある(現在scientific reportに原著論文投稿中)ことを見出した。2)全身投与量(経静脈投与)に応じて内耳に到達する量が増加する傾向がみられた。以上の成果から、薬物量を多く投与することで内耳に薬物が多く到達することが予想された。現在、大量投与の方が効果的であるという論文(Lancet 2013)、全身投与で効果がなければ救済治療として局所投与を検討するというプロトコールがアメリカ耳鼻咽喉科学会の突発性難聴ガイドラインに記載があるが、エビデンスが実際にはなく、詳細は不明のままであった。今回の基礎研究では上記論文、ガイドラインを支持する結果であり臨床的意義のある成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
GFAP-lucマウスを用いた内耳への薬物動態を解析を行っていた。具体的には全身投与(経静脈、腹腔、皮下投与)と内耳への直接投与(局所投与)について解析を行っていた。平成28年度には当初予定されていなかった実験として、経口投与による薬物動態も解析が可能であった。理由として全身投与と局所投与の併用実験が予想より早く進行したことが挙げられる。マウスにルシフェリンを経口投与する報告がみられ、経口投与でも実験ができることが示されていたことも理由である。最終年度はこの解析をさらに進めていく予定である。 経口投与は全身投与、局所投与とも薬物動態が異なっていた。投与後から内耳への移行が一貫して低いことが示された。したがって、経口投与よりも経静脈投与や内耳への局所投与が内耳により多くの薬物を到達させることが可能となった。通常使用されるステロイドと今回の実験で用いられるルシフェリンは異なるものの、臨床的には経口投与よりも全身ないし局所投与が推奨される。 以上より、本実験系において臨床的に行われている全投与法による内耳薬物動態を解明することができた。従来は個々の動物内耳を経時的に摘出し、異なる個体で解析していたが、今回、同一個体で経時的にさまざまな投与法を比較した報告はなく、リアルタイムイメージングを有効活用した貴重なデータと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
全身投与と局所投与、その併用についての有効性を論文に投稿している。さらに経口投与に関する論文を投稿予定である。最終年度に向けて全ての投与経路と内耳薬物動態について解析を行うことができたので、上記の2つの論文報告が終了した時点で、内耳薬物動態に関する総説を英文雑誌に投稿したい。またアメリカ耳鼻咽喉科学会の突発性難聴ガイドラインに関するシンポジウムにおいて、併用治療がいかに重要であるかということを示す際に、われわれの研究成果が紹介されていた。今回は総説の内容をヨーロッパとアメリカの学会で報告し啓蒙したい。 今後の課題としては以下2つが挙げられる。1)ステロイドとルシフェリンの化学構造式や分子量の違いがあるため、本来の薬物動態と異なるのではないかという指摘がある。ステロイドにルシフェリンを結合させて薬物動態を行うことで解明したいと考えていたが、実験はうまくいかないことが我々の実験で示されている。また、結合されることで大きな複合体となり、ステロイドそのものとは異なる物質であることも考慮する必要がある。したがってステロイドそのものの内耳への薬物動態を示すための遺伝子改変動物を作成する必要があると考えている。実際には研究費の予算上難しく、以前も申請して研究費に採択されていない。2)内耳障害の有無で薬物動態が異なるかという点である。これについては検討していく予定である。ただし、どのような内耳障害が臨床的に最も近いモデルになるのか検討の余地がある。現在は内耳障害モデル動物に発生する蛋白質をダイアモンド電極を内耳に刺入しリアルタイムに内耳に含まれる物質の濃度を測定するシステムを構築しているところであり、これまでの実験成果をふまえて上記1)2)の課題を乗り越える実験系を構築しているところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額の発生は効率的物品調達を行った結果である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に対応したい。
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