先天性難聴の病態解析には動物モデルの作製が不可欠であるが、先天性難聴の原因遺伝子のノックアウトマウスの一部は、胎生致死となり生後の聴覚生理を解析できないという問題がある。DiGeorge症候群(Tbx1遺伝子変異により難聴と心疾患を合併)やWaardenburg症候群(Sox10遺伝子変異により難聴と巨大結腸症を合併)など、症候群性難聴のヒト疾患モデルマウスの多くは、内耳以外の発生異常が原因で、発生中あるいは出生直後に致死となり、生後の聴覚生理機能を評価することは不可能である。こうした問題を解決するため、内耳特異的コンディショナルノックアウトマウスを作製する事を想起した。申請者らはこれまでにSix1遺伝子のシスエレメントの解析により内耳発生領域に特異的に発現を示すエンハンサー領域を発見した。同エンハンサー領域の制御下にCreリコンビナーゼを発現するCreマウスを作製し、任意の難聴原因遺伝子のFloxマウスと交配することで、内耳特異的コンディショナルノックアウトマウスの作製が可能となる。これまでに、内耳エンハンサーの制御下にCreERT2リコンビナーゼを発現するCreマウスを作製し、その発現解析を行った。さらに、本年度はCRISPR/Cas9システムを用いた、簡便にノックインマウス作製を行う方法の開発にも取り組んできた。CRISPR/Cas9システムは任意の配列に設定したgRNAを認識してCas9タンパクがゲノムDNAを切断する遺伝子改変技術である。同システムにより、Cre/loxPシステムを用いた場合と比較して、短期間低コストでのコンディショナルノックアウトが実現可能となる。
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