研究課題/領域番号 |
15K10782
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
勝沼 紗矢香 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (80457043)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 嗅上皮 |
研究実績の概要 |
マウス嗅上皮頂端面側では、嗅細胞(OC)は互いに接さずに、支持細胞(SC)に隔てられ存在するが、その配列形成機序は明らかでない。マウス嗅上皮発生初期では、OCは互いに接しているが、次第にSCに隔てられ孤立する。細胞間接着には接着分子が必須であるため、嗅上皮における接着分子の発現を観察したところ、OCはネクチン-2(N2)とN-カドヘリン(N-cad)を、SCはN2、ネクチン-3(N3)及びN-cad、E-カドヘリン(E-cad)を発現していた。N2、N3ノックアウト(KO)マウス嗅上皮を観察すると、接着OCを多数認めた。ネクチンとカドヘリンはalpha-カテニン(cat)を介して協調的に働き、細胞間接着を制御する。この協調作用が嗅上皮細胞配列に寄与しているか、alphaN-cat KOマウス嗅上皮を観察したところ、接着OCを多数認めた。この配列異常発生機序を、細胞境界におけるalpha-catの濃縮を観察し検討した。細胞境界のalpha-catの濃縮は、即ちその境界の接着力と仮定しうる。発生過程で、野生型ではOCとSC間のalpha-catの濃縮が上昇したが、alphaN-cat KOマウスでは、同部位のalpha-catの濃縮は常に低かった。SC間のalpha-catの濃縮は常に強く、OC間のそれは常に弱かった。以上、OCとSC間の接着力上昇がOCの分離に貢献すると考えられた。続いて、接着分子の組合せが嗅上皮細胞配列形成に寄与するか、N2とN-cadを発現させたOCモデルと、N2、N3とE-、N-cadを発現させたSCモデルを作成し実験した。混合培養で、OCはSCに囲まれ孤立し、OCとSC間のalpha-catの濃縮は、SC間のそれと同等に強く、OC間のそれは弱かった。嗅上皮におけるalpha-catの濃縮パターン及び細胞配列を再現できた。以上、ネクチンとカドヘリンが協調的に働き、OCとSCの接着力が上昇して接着OCが分離することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
嗅上皮頂端面側の嗅細胞と支持細胞の特徴的な細胞配列が形成される機序を明らかにした。発生過程において、初期には互いに接していた嗅細胞は、次第に支持細胞に隔てられてその接着を解消し孤立していく。嗅細胞と支持細胞は接着分子ネクチンとカドヘリンを異なる組合せで発現しており、ネクチンとカドヘリンがalpha-カテニンを介して協調的に働くことによって両細胞間の細胞境界ごとの接着力の差が生まれる。これにより嗅細胞と支持細胞の間の接着力が上昇することによって、接していた嗅細胞が、両隣の支持細胞に割り込まれる形で分離することを明らかにした。当初の予定通り、嗅上皮の特徴的な細胞配列が形成される分子機構を、ノックアウトマウスを用いた組織レベルの実験と培養細胞を用いた細胞レベルの両面から検証し、結論を導くことができた。ネクチンとカドヘリンによる選択的な細胞間接着が嗅上皮の形態形成を制御している可能性を想定し、培養細胞に任意の接着分子を発現させて細胞選別実験を行い、細胞間の接着力とそれに伴う細胞配列形成を検証した。さらに、研究過程において共同研究者の協力を得ることができたため、嗅上皮組織培養を用いてその細胞配列変化をタイムラプス画像に撮影することに成功し、また、コンピューターシミュレーションを用いて細胞間接着力の違いによる細胞配列形成を検証でき、研究がより一層前にすすんだ。これらの研究成果を、今年度、論文として発表した(Katsunuma S, et al. The J. Cell Biol. 2016)。所属する神戸大学のホームページ内にある研究ニュースのサイトに本論文を紹介し、広く研究成果を社会・国民に発信した。以上より、研究の進捗はおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果から、ネクチンとカドヘリンの協調作用によってうみだされる細胞境界ごとの接着力の差が、嗅細胞と支持細胞の細胞配列を形成することが明らかになった。これまでの嗅上皮の組織培養を用いた細胞配列変化の観察やコンピューターシミュレーションによる細胞配列変化の観察から、接着した嗅細胞が分離する際には、嗅細胞間の境界が短くなるに伴って、支持細胞と嗅細胞間の境界がそれに取って代わる形で伸長し、最終的には支持細胞どうしの新たな境界が形成されて、その結果嗅細胞が分離することが明らかになっている。しかし、境界ごとの接着力の差が、どのような分子メカニズムで境界の短縮・伸長を制御し、さらには新たな境界を形成するのかは、明らかになったとはいえない。細胞の形や細胞境界の長さの変化は、細胞内のアクチン骨格により制御されることが知られている。そこで、細胞間接着によるアクチン骨格の制御が嗅上皮の細胞配列の形成に寄与している可能性を想定し、嗅上皮細胞配列形成におけるアクチン骨格の動態を検討する。正常もしくはalphaN-カテニンノックアウトマウス嗅上皮組織培養に対し、アクチン骨格構成を阻害もしくは亢進させる薬剤を培養液に投与し、細胞配列への影響を観察する。また、嗅細胞が互いに接さずに存在する嗅上皮の特徴的な配列が、どのように機能と結びついているのかは全く分かっていない。これまで、ネクチンノックアウトマウス嗅上皮において、嗅細胞同士が接したままの異常を確認している。そこで、正常マウスとネクチンノックアウトマウスの嗅覚機能を測定し比較検討することにより、嗅上皮細胞配列と機能の結びつきを検討する。
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