研究課題
アレルギー疾患の病態形成において濾胞ヘルパー T (Tfh) 細胞がどのように IgE 抗体の産生を制御しているのかを検討するために、北海道特有の季節性アレルギー性鼻炎であるシラカバ花粉症の病態形成における血液 Tfh 細胞の役割について検討した。その結果、シラカバ花粉非飛散期、飛散期共に、シラカバ花粉症患者群で健常者群と比較して total Tfh 細胞に占める Tfh2 細胞の割合が増加していた。しかし、患者群の total Tfh 細胞、Tfh2 細胞の割合は、花粉非飛散期 1, 飛散期、非飛散期 2 の 3 期で有意な変化を認めなかった。そこで我々は、シラカバ花粉症の病態では、Tfh 細胞の割合や数の変化ではなく、活性化の程度が変化しているという仮説を立て、活性化 T 細胞のマーカーとして知られる PD-1 と ICOS に着目し、血液 Tfh 細胞において解析を行った。結果、花粉飛散期には患者群で健常者群と比較して ICOS 陽性 Tfh 細胞の割合が増加しており、ICOS 陽性 Tfh 細胞の割合は飛散期で増加し、非飛散期には減少していた。さらには、ICOS 陽性 Tfh 細胞の割合は患者群において、症状スコア (total symptom score)、シラカバ特異的 IgE 値と正の相関を認めた。一方 PD-1 陽性 Tfh 細胞はそのような傾向を認めなかった。今回の結果から、Tfh2 細胞はアレルギー素因を規定していること、ICOS が飛散期における活性化 Tfh 細胞の指標となり得ること、ICOS 陽性 Tfh 細胞はシラカバ花粉症の病態形成に重要な役割を担っている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今回の研究成果により、ICOS 陽性 Tfh 細胞が抗体産生細胞からの IgE 抗体の産生に重要な役割を担っている可能性が示唆された。このことは、アレルギー疾患の病態形成において Tfh 細胞がどのように IgE 抗体の産生を制御しているかという、本研究課題の目的を達成する上で重要な知見と考えられる。
抗原暴露による Tfh 細胞の活性化機構の解析するために、ヒト扁桃リンパ球または末梢血単核球をシラカバなどの抗原で刺激し、Tfh 細胞の活性化を観察したのち、活性化 T 細胞をセルソーターで単離して B 細胞と共培養を行い、IgE 抗体の産生を確認する。さらに、同様の系で T 細胞の活性化分子である ICOS や PD-1 の中和抗体による、IgE 抗体産生の変化を検討する。仮説通りに、IgE 抗体の産生が抑制された場合には、アレルギー性鼻炎モデルマウスを用いた動物実験でも同様の変化が見られるかを観察する。次に、アレルギー疾患の病態形成に重要とされる Tfh2 細胞の分化誘導機構の解析のために、ヒト扁桃または末梢血由来のナイーブヘルパー T 細胞から Tfh2 細胞の分化誘導を試みる。TSLP などのアレルギー性炎症に関与する上皮産生サイトカイン、ヒスタミン、ロイコトリエンなどが Tfh2 細胞への分化に与える影響について検討する。特に Tfh2 細胞への分化、増殖を抑制する働きをもつ物質の発見を試み、治療薬としての臨床応用に繋げたい。また、ヒト扁桃または末梢血由来の制御性 B 細胞との共培養を行い、制御性 B 細胞が Tfh2 細胞の分化に及ぼす影響についても検討したい。最後に、制御性 B 細胞の分化誘導機構の解析を行う。具体的には、アレルギー性鼻炎患者末梢血から制御性 B 細胞を分離し、DNA マイクロアレイにて未だに不明な制御性 B 細胞の表面抗原やマスターレギュレーターの検索を行う。その結果をもとに、ヒト扁桃または末梢血由来のナイーブ B 細胞から制御性 B 細胞の分化誘導を試みる。この実験系を利用して、分化や増殖を促進するようなサイトカインや化合物の検索を行い、候補が同定された場合には、既存薬ライブラリーを用いたスクリーニングを行い、その効果を in vitro の系で確認したい。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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http://web.sapmed.ac.jp/immunology/index.html