研究課題
頭頸部扁平上皮癌の進展には多くの現象が関与し、それらの機序の解明が癌進展の制御のために必要である。またこれらの腫瘍進展機序には細胞内シグナル伝達が関与し、その検討も重要な課題である。当研究ではこれまでに、頭頸部癌細胞株を用いたシグナル伝達因子の検討を行い、CD147によってMEKを介するシグナル伝達経路が活性化されることを示した。また、EMTの誘導因子であるTGF-βにより頭頸部扁平上皮癌細胞株がEMTを誘導されることを確認し、さらにCD147が頭頸部扁平上皮癌のEMTに関与することを示唆した。放射線治療は頭頸部癌治療において重要な役割を持つが、他の治療法と同様しばしば再発を経験し、治療に難渋する。近年では放射線治療を生き延びた癌細胞(癌幹細胞)が増殖して再発腫瘍を形成するなどが報告されているが、その機序の詳細な解明はいまだ十分ではない。腫瘍組織には癌細胞以外にも多くの間質細胞が存在し、これらの細胞間接触や液性因子が癌の進展に関与することが指摘されている。特に癌組織における線維芽細胞は、がん関連線維芽細胞として腫瘍進展に関与することが知られ、癌微小環境において重要な役割を果たしている。我々は癌細胞を取り巻き、進展の足場となる線維芽細胞に着目し、放射線照射が線維芽細胞の腫瘍進展能に与える影響について検討した。この結果、放射線照射により、線維芽細胞が持つ腫瘍細胞遊走促進能が亢進した。この結果は、照射中あるいは照射後の組織において、生存した線維芽細胞が腫瘍進展に関与する可能性を示唆するものと考えられた。
3: やや遅れている
頭頸部癌においてCD147により誘導されるシグナル伝達因子、およびそのEMTへの関与が確認された。これに加え、放射線により線維芽細胞の持つ頭頸部癌細胞遊走促進能が促進されることが確認されたが、この現象の機序の解明、特にCD147の関与についての検討が求められる。
これまでの研究によって明らかとなった頭頸部癌におけるCD147、およびCD147によって誘導されるシグナル伝達因子が、放射線によって亢進された線維芽細胞の持つ頭頸部癌細胞遊走促進能に対してどのように関与するのかを検討する。これらの結果を背景に、頭頸部癌微小環境中におけるCD147の詳細な役割の解明を進める。
頭頸部癌細胞におけるCD147を介した細胞内シグナル伝達のより詳細な検討のため、頭頸部癌細胞と癌微小環境との相互作用におけるCD147の役割を検討する必要が生じたため。次年度においては、本年度に確認された放射線によって亢進される線維芽細胞の癌細胞遊走能促進能におけるCD147の関与を検討する。
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Oncol Lett
巻: 14 ページ: 4670-4676
10.3892/ol.2017.6808.