頭頸部扁平上皮癌の進展には多くの現象が関与し、それらの機序の解明が癌進展の制御のために必要である。またこれらの腫瘍進展機序には細胞内シグナル伝達が関与し、その検討も重要な課題である。これまで我々は、細胞膜に存在するタンパク質であるCD147が頭 頸部癌細胞の浸潤、遊走、薬剤耐性などに関与することを報告して来たが、今回の研究では、このCD147の頭頸部扁平上皮癌の腫瘍進展能への関与をさらに検討するとともに、CD147によって誘導されるシグナル伝達因子を解明し、またその因子の腫瘍進展能への関与を検討した。頭頸部癌細胞株を用いたシグナル伝達因子の検討では、CD147によりMEKを介するシグナル伝達経路が活性化されることを確認した。また近年、固形がんにおけるEMT(Epithelial-mesenchymal transition:上皮間葉移行)の重要性が注目され、頭頸部領域でもその重要性が着目されている。しかしこのEMTに対するCD147の関与は不明であった。この検討のため、我々はEMTの誘導因子であるTGF-βにより頭頸部扁平上皮癌細胞株がEMTを誘導されることを確認し、さらに頭頸部部扁平上皮癌細胞株のCD147をknock downし同様の検討を行った。この結果、CD147のknock downによりTGF-βによるEMT誘導は抑制された。さらに、EMT誘導が抑制された際、細胞遊走能および浸潤能をも抑制されることを確認した。これは、CD147が頭頸部扁平上皮癌のEMT誘導および細胞遊走や浸潤能などの腫瘍促進能に関与することを示唆するものである。この結果から、頭頸部扁平上皮癌の新たな治療標的として、CD147が候補となりうることが示された。
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