研究課題
血液中の白血球の一種である単球は、末梢の抗原提示細胞であるマクロファージや樹状細胞等の前駆細胞である。そのCD14とCD16の発現によりclassical, intermediate, nonclassicalの3つの亜群に分かれ、それぞれ別の機能があることが近年の研究により明らかになった。しかし癌患者における単球サブセットの動向や役割は、ほとんど分かっていない。現在までのところ我々は、頭頸部癌患者27例と非癌患者11例の末梢血と腫瘍標本の解析を行い、患者末梢血ではCD14+CD16+ intermediate monocyteの比率が有意に減少していることが分かった。またintermediate monocyteでは免疫抑制性分子HLA-Gの発現が増加し、同時にHLA-Gの抑制性受容体ILT2の発現も増加していた。従って癌患者における免疫抑制状態により、抗腫瘍効果を持つintermediate monocyteの比率が減少したり、免疫抑制性の分子の発現が増加している可能性が示唆される。CD16+単球はTie-2等の血管新生因子を発現するという報告があり、本研究では血管新生に関与するMFG-E8の受容体CD51のintermediate monocyteにおける発現が、腫瘍組織の血管増殖と相関することを明らかにした。さらに癌組織がMFG-E8を発現している症例では、intermediate monocyteにおけるCD51やMFG-E8の発現が有意に低いことが分かった。これらのことから、intermediate monocyteは腫瘍血管新生にも関与している可能性がある。末梢血のpreliminary dataは2016年2月の日本免疫治療学研究会で発表され、腫瘍組織の解析も含めたデータは、同4月の米国癌学会で発表される予定である。
2: おおむね順調に進展している
患者末梢血における単球サブセットの動向や、腫瘍組織におけるHLA-GやMFG-E8発現の解析については、当初の予定以上の研究結果が出ており、十分に国際学会での発表に堪え得る成果が挙げられている。一方in vitroにおける各monocyte subsetsの誘導と、それらを用いた頭頸部癌細胞株に対する機能解析については、まだ予備実験の段階である。
頭頸部癌患者の末梢血・腫瘍組織検体の解析については、今後も症例数を増やして解析し、癌患者50例以上、非癌患者25例以上を目標とする。さらに健常人末梢血より3つの単球サブセットを分離し、その抗原提示細胞への分化誘導能の違い、頭頸部癌細胞株に対する貪食能や抗原提示能、腫瘍特異的免疫応答の誘導能を評価する。またHLA-G-ILT2/ILT4系やMFG-E8-CD51-PS系の阻害による、抗腫瘍免疫の増強を試みる。上記のin vitro実験の結果を踏まえ、NOGマウスにおける移植腫瘍に対するin vivoでの抗腫瘍免疫応答の誘導を行う予定である。
平成27年度は癌患者・健常人末梢血や原発腫瘍の解析により、かなり有望なデータが得られた。そのため当該年度は患者検体の解析の実験系に絞って研究を行っており、当初の計画予定よりも使用額が少なかった。
患者サンプルの解析については、解析項目・抗体数をさらに増やして検討を行う予定であり、また2年度目以降はin vitroの実験系とNOGマウスによる動物実験系を開始する予定である。そのため次年度繰越分の研究費はそれらに充填される予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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