研究課題/領域番号 |
15K10799
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
櫻井 大樹 千葉大学, 大学院医学研究院, 講師 (10375636)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 / 頭頸部癌 / 頭頸部扁平上皮癌 / 免疫抑制細胞 |
研究実績の概要 |
頭頸部進行癌に対し、放射線化学療法、拡大手術による治療が行われているが、再発・転移をきたすことも多く、治療成績はいまだ満足いくものではない。近年、癌が誘導する免疫抑制作用の存在が明らかとなり、治療効果の減弱や、免疫治療の効果が抑制される要因として注目されている。しかし、頭頸部扁平上皮癌患者において免疫抑制細胞の意義はよく分かっていなかった。本研究は、免疫抑制細胞と臨床経過との関連、抗腫瘍免疫抑制機序の解明、免疫抑制細胞の増殖や機能を阻害する薬剤の探索、さらに頭頸部癌患者における抗腫瘍免疫を賦活させ標準治療や免疫療法の効果を高める新たな治療法の開発を目的としている。 今回、標準治療を行った頭頸部扁平上皮癌患者において、その治療前の末梢血中のエフェクター型の制御性T細胞について、その比率が1%以上の上昇例と1%以下の非上昇例とに分けて予後を比較すると、上昇例は非上昇例に比べ、全症例においてもIV期進行癌のみにおいても、予後が不良であることが明らかとなった。この結果から、免疫抑制細胞として頭頸部扁平上皮癌患者で同定されるエフェクター型Tregは、予後因子となることが示唆された。さらにエフェクター型TregはT細胞やNKT細胞の活性化による分裂、サイトカイン産生を強く抑制することが示された。さらに樹状細胞の培養条件下にTregを加えると、樹状細胞の成熟が抑制されることが示され、TregによるT細胞やNKT細胞の抑制には抗原提示細胞である樹状細胞の機能抑制が関与している可能性が示唆された。免疫抑制機序の解明と、さらには免疫抑制細胞の阻害薬の探索は、免疫治療の効果の増強の可能性が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
頭頸部扁平上皮癌患者の末梢血中において活性化型Tregは、良性腫瘍患者と比較し著明に増加し、腫瘍径、病期の進行によって有意に増加していることを確認した。 治療前の頭頸部扁平上皮癌患者の採血から分離した末梢血単核球中のTregの比率をフローサイトメトリーにて解析し、標準治療後の予後との関連を解析した。その結果、CD45RA-Foxp3highのエフェクター型Tregの比率が1%以上の上昇例と、1%以下の非上昇例とに分けて予後を比較すると、上昇例は非上昇例に比べ、全症例においてもIV期進行癌のみにおいても、予後が不良であることが明らかとなった。 IL-2およびTGF-βにより健常者の末梢血よりTregを、またIL-2およびαGalCerによりNKT細胞を誘導した。これらの細胞を共培養し、αGalCerの添加による再刺激を加え、NKT細胞の増殖をフローサイトメトリーにて、IFN-γの産生をELISA法にて測定した。その結果、Treg容量依存的にNKT細胞の増殖および、IFN-γ産生は抑制された。さらに、培養液中に、免疫チェックポイント分子阻害薬である抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体を添加したが、その抑制は解除されなかった。さらに樹状細胞の培養条件下にTregを加えると、樹状細胞の成熟が抑制されることが示された。これらの結果から、TregによるT細胞やNKT細胞の抑制には抗原提示細胞である樹状細胞の機能抑制が関与している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
TregおよびMDSCの増殖もしくは機能阻害する薬剤として、抗腫瘍薬、分子標的薬などが候補として報告されている。これら薬剤の頭頸部癌の免疫抑制細胞に対する抑制効果について解析を行い、有効な方法を探索する。頭頸部扁平上皮癌患者の末梢血単核球分画におけるTregおよびMDSCを測定し、増加を認めた症例の末梢血リンパ球に候補となる薬剤を添加し一定時間培養後、細胞数、死細胞数をフローサイトメトリーにて測定し、抑制効果を解析する。同時にT細胞など他のリンパ球への影響も解析し、有効な薬剤の選択と、至適濃度の探索を行う。この情報は、標準治療後の再発症例で根治治療の困難な症例への適応を検討しており、本研究の結果をもとに臨床試験へのプロトコールを検討していく。 計画が当初予定通り進まないときの対応として、末梢血よりIL-2およびTGF-βにより培養誘導したTregとIL-2およびαGalCerにより誘導したNKT細胞を用いて、Tregのみを抑制しながらT細胞やNKT細胞を抑制しない薬剤の探索を行う。免疫抑制細胞の機序が解明困難であるとき、阻害薬添加の有無によるTregの遺伝子変動を解析し、分子メカニズムの探索を行い、多方面からの検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
TregおよびMDSCの増殖もしくは機能阻害する薬剤として、抗腫瘍薬、分子標的薬などが候補として報告されており、これら薬剤の頭頸部癌の免疫抑制細胞に対する抑制効果について解析を進めているが、最も効果的に免疫抑制細胞を阻害する方法を探索し、効果を比較しており、研究の継続が必要であり、また年度を超えて研究を継続するために次年度使用額を必要とする。頭頸部扁平上皮癌患者の末梢血単核球分画におけるTregおよびMDSCを測定し、増加を認めた症例の末梢血リンパ球に候補となる薬剤を添加し一定時間培養後、細胞数、死細胞数をフローサイトメトリーにて測定し、抑制効果を解析する。同時にT細胞など他のリンパ球への影響も解析し、有効な薬剤の選択と、至適濃度の探索を行う。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額にいては、TregおよびMDSCの増殖もしくは機能阻害する薬剤として、抗腫瘍薬、分子標的薬などが知られ、これら薬剤の頭頸部癌の免疫抑制細胞に対する抑制効果について解析を行うために使用する。頭頸部扁平上皮癌患者の末梢血単核球分画におけるTregおよびMDSCを測定し、増加を認めた症例の末梢血リンパ球に候補となる薬剤を添加し一定時間培養後、細胞数、死細胞数をフローサイトメトリーにて測定し、抑制効果を解析する。同時にT細胞など他のリンパ球への影響も解析し、有効な薬剤の選択と、至適濃度の探索を行う。
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