研究課題/領域番号 |
15K10800
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
福本 一郎 千葉大学, 医学部附属病院, 医員 (70748764)
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研究分担者 |
関 直彦 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50345013)
吉川 直子 千葉大学, 医学部附属病院, 特任助教 (50400924)
花澤 豊行 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90272327)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 頭頸部扁平上皮癌 / 癌抑制型マイクロRNA / 細胞外マトリックス |
研究実績の概要 |
我々はこれまで頭頸部扁平上皮癌の臨床検体を用いて、発現が抑制されているマイクロRNAプロファイルを作成し、その中から癌抑制型マイクロRNAとその制御するネットワークを解明してきた。最近では、がん抑制型マイクロRNAであるmiR-29s、miR-218、miR-451aが細胞外マトリックスであるラミニンと、その受容体であるインテグリンを直接制御していることを証明した。細胞外マトリックスは細胞の形態保持に関与するだけでなく、細胞の分化・増殖・浸潤・遊走に関わることが明らかになってきている。 我々は新たに口腔癌を用いたマイクロRNA発現プロファイルを作成し、miR-26a/bが有意に発現が低下していることに注目した。miR-26a/bを核酸導入し、癌の遊走能、浸潤能を有意に抑制することが示された。miR-26a/bが標的とする遺伝子を探索したところ、TMEM184Bという遺伝子が同定された。実験の結果miR-26a/bはTMEM184Bを直接制御し、TMEM184Bは癌の増殖・遊走・浸潤に関与していること、さらには細胞外マトリックスの受容体であるITGB4とも関与していることが明らかとなった。 また、これまで我々が頭頸部扁平上皮癌において、癌の遊走・浸潤を著名に抑制するmiR-26a/b, miR-29a/b/c, miR-218が共通して標的とする癌遺伝子やネットワークがあると仮定し、In Silicoの解析を行いLOXL2という遺伝子に注目した。LOXL2は細胞外マトリックスの再構成に関与し、様々な癌種において発現が上昇しているとの報告がある。実験の結果これらのマイクロRNAはLOXL2を直接制御することで癌の遊走・浸潤を著名に抑制することが証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は口腔扁平上皮癌臨床検体を用いたマイクロRNA発現プロファイルを用いてmiR-26a/bに着目し、これのらマイクロRNAが口腔扁平上皮癌において癌抑制型マイクロRNAとして作用することが解明され、平成27年1月にMicroRNA expression signature of oral squamous cell carcinoma; functional role of microRNA-26a/b in the modulation of novel cancer pathwaysがBritish Journal of Cancerにアクセプトされた。また、miR-26a/b、miR-29s、miR-218という癌抑制型マイクロRNAが癌遺伝子であるLOXL2を直接制御し、頭頸部癌において癌の遊走・浸潤を著名に抑制することを証明し、平成27年9月Tumor-suppressive microRNAs (miR-26a/b, miR-29a/b/c and miR-218) concertedly suppressed metastasis-promoting LOXL2 in head and neck squamous cell carcinomaが Journal of Human Geneticsにアクセプトされた。現在はまた新たな癌抑制型マイクロRNAに関して投稿中である。平成27年度には、これらの研究成果を計4回の海外学会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
頭頸部扁平上皮癌において癌促進型として作用するのか、癌抑制型として作用するのかが解明されていないマイクロRNAも多いと考えられる。今後も頭頸部扁平上皮癌発現プロファイルから推定される癌抑制型マイクロRNAを同定し、それらの制御する癌転移分子ネットワーク機構を解明していく予定である。また、これまで癌抑制型マイクロRNAと同定してきた中で、新たな標的遺伝子や標的とするpathwayもあると推定され、その探索していくのも重要であると考えている。 頭頸部扁平上皮癌は放射線治療や化学療法後の治療不応例、再発例に対して救済手術を行うため、治療前後での臨床検体を得ることができる数少ない癌種の一つである。頭頸部扁平上皮癌において唯一認可されている分子標的薬であるセツキシマブに対して耐性を示す頭頸部扁平上皮癌臨床検体の使用前後の発現を比較し、マイクロRNA発現プロファイルを作成した。このプロファイルの中で発現が使用前後で変動しているマイクロRNAに注目し、それらが制御する癌遺伝子を検討することで、分子標的薬の耐性獲得機序とマイクロRNAの関係性を解明していく予定である。 また、これまで同様にこれらの研究における成果をAmerican Association for Cancer Research (AACR)、日本耳鼻咽喉科学会、日本頭頸部癌学会、日本癌学会などの場を利用し、国内外で発信していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在は頭頸部扁平上皮癌臨床検体から作成されたマイクロRNAプロファイルより、ある種類のマイクロRNAに注目し、解析してきた。その論文に必要とされる実験の目処がついてきたこと、またもう一つの作成論文としてはReview Articleであったため実験の必要がなかったこと、などから年度末に物品等をあまり購入しなかった。また、国際学会に関しても今年度に参加した4つのうち3つが日本開催であり、学会発表のための旅費等にはあまり使用しなかった。これらの理由から、次年度使用額が生じたと考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
頭頸部扁平上皮癌臨床検体を用いて網羅的な解析をし、マイクロRNAやmRNAの発現プロファイルを作成するには多大な費用が必要と考える。また、マイクロRNA発現プロファイルから新たなマイクロRNAに着目し、癌抑制型マイクロRNAであると同定すること、そのマイクロRNAが標的とする癌遺伝子や癌転移分子ネットワーク機構を解明するには、様々な種類の薬品や物品が必要である。研究成果をまとめ論文として完成するには英文校正料、publish料などの費用も必要である。前年度同様、今年度に関しても研究結果の発表のために国内外で行われる学会へ参加する予定であり、そのための旅費や宿泊費等にも使用されると考える。
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