研究課題/領域番号 |
15K10801
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
関 直彦 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50345013)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 頭頸部扁平上皮癌 / 癌抑制遺伝子 / EGFR / 治療抵抗性 / MET / シグナル伝達 / 受容体 |
研究実績の概要 |
頭頸部扁平上皮癌の治療課題である局所制御と臓器温存の更なる向上を図るために、外科的手術、化学療法・放射線療法が開発され、治療成績の向上が認められている。しかしながら、これら癌の遠隔転移をきたした症例の予後は極めて不良である。頭頸部扁平上皮癌の新たな治療選択として、上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とした、分子標的治療薬が使用可能となり治療効果を上げている。しかしながら、分子標的治療薬の効果の乏しい症例や、治療反応後に抵抗性を獲得し、再発する症例も少なからず存在する。分子標的薬の治療の問題点として、一旦著効した症例が治療抵抗性を獲得し、再発する事が明らかとなってきた。 近年、種々のタンパクコード遺伝子(mRNA)の発現調節に関わるRNA分子として、タンパク質をコードしない機能性RNAの一つであるマイクロRNAが発見され注目されている。miRNAは、真核生物のゲノム中にコードされている内在性の遺伝子であり、細胞内のRNA発現を制御している分子である。1種類のマイクロRNAは、細胞内で、数百~数千のRNAを制御している。そのため、マイクロRNAの発現異常は、細胞内のRNAネットワークの破綻を引き起こす事から、様々なヒト疾患に関与している。癌においては、癌細胞の発生、進展、薬剤耐性に重要な役割を担っている事が報告されている。 本研究は、頭頸部扁平上皮癌・分子標的治療薬に対する治療抵抗性の分子メカニズムを、マイクロRNAを起点としたRNAネットワークを明らかにする事で、理解しようする提案である。具体的には、分子標的治療薬の治療後に再発をきたした患者臨床検体において、発現変動するマイクロRNAを、次世代シークセンサーを用いて解析する。更に、これらマイクロRNAが制御するRNAネットワークについて、ゲノム科学的手法を駆使して明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
千葉大学大学院医学研究院・耳鼻咽喉科・頭頸部外科において、EGFR分子標的治療薬(セツキシマブ)使用後に、腫瘍が残存した症例および治療後に再発した症例のサルベージ手術を施行した。本研究の同意を得た患者から、外科手術検体を得た。これら検体から、RNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いた網羅的なマイクロRNA発現解析を施行した。データマイニングの結果、セツキシマブ投与後に治療抵抗性を獲得した癌細胞で、発現変動を認めるマイクロRNAを複数検出した。 治療抵抗性癌細胞において、発現が抑制されているマイクロRNAに着目し、癌抑制機能を検討した。その結果、microRNA-23b、microRNA-27b、microRNA-218、microRNA-1、microRNA-206、microRNA-133aについては、癌細胞の遊走能・浸潤能を制御する「癌抑制型マイクロRNA」である事を証明した。 また、データベース検索から、microRNA-23b、microRNA-1、microRNA-206は、EGFRを制御している事が示唆されたため、これらマイクロRNAについて、更なる機能解析を行った。その結果、microRNA-23b、microRNA-1、microRNA-206は、直接、EGFRの3’UYTに結合し、EGFRの発現をmRNAレベルで分解する事が明らかとなった。 EGFR分子標的治療薬・治療抵抗性癌においては、EGFRを介した経路を迂回する、他のシグナル経路が存在し、活性化している事が予想される。この事について、チロシンキナーゼ受容体に着目し、免疫染色で解析した結果、c-METの高発現を複数の症例で観察した。この事は、EGFR分子標的治療薬・治療抵抗性癌においては、c-METを介する経路の活性化が治療抵抗性獲得に関与している事を示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
正常扁平上皮組織、未治療・頭頸部扁平上皮癌、治療抵抗性・頭頸部扁平上皮癌の3群について、シークエンスデータを整理して、治療抵抗性・頭頸部扁平上皮癌に関与するマイクロRNAの候補を選択する。具体的には、①正常扁平上皮組織 vs未治療・頭頸部扁平上皮癌、②正常扁平上皮組織 vs治療抵抗性・頭頸部扁平上皮癌、③未治療・頭頸部扁平上皮癌 vs 治療抵抗性・頭頸部扁平上皮癌における解析を行い、それぞれで、発現変動するマイクロRNAを選別する。 選択したマイクロRNAについては、細胞に核酸導入する機能解析を施行して、「癌促進型マイクロRNA」「癌抑制型マイクロRNA」の探索を継続する。また、これら治療抵抗性マイクロRNAが制御する分子経路について、順次、明らかにしていく予定である。方法は、マイクロRNAを頭頸部扁平上皮癌に核酸導入し、網羅的な遺伝子発現解析を行い、発現が変化した遺伝子を機能分類する戦略を用いる。 また、今回の解析において、c-METを介する経路の活性化が、セツキシマブ治療抵抗性獲得に関与している事が強く示唆されたため、この経路に関与するマイクロRNAについても、検討していく予定である。更に、c-MET以外の細胞膜受容体について、解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
マイクロRNA解析で使用する核酸試薬が、他の研究予算で購入した試薬と同じであったため、試薬の購入費用が節約できた。免疫染色に用いる抗体が、研究室に残って入たため、抗体購入費用が節約できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度より繰り越した研究費は、マイクロRNA核酸導入試薬や抗体購入の費用に充てる。
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