研究課題
TP53は頭頸部扁平上皮癌において最も変異頻度の多い癌抑制遺伝子で、欧米の報告では変異有無が予後に関連すると報告されている。しかし、東アジア人に高頻度の下咽頭癌についての情報は少ない。そこで下咽頭癌手術例のTP53遺伝子変異及びp53タンパク発現の有無と、臨床病理学的因子の関連を明らかにすることを目的に研究を行った。下咽頭扁平上皮癌根治切除例57例を対象とし、後向きに検討した。TN分類の内訳はT1/2/3/4a=4/5/31/17例、N0/1/2(a/b/c)=24/8/25(1/20/4)例であった。TP53変異検索はexon2-9のサンガー法にて塩基配列を決定し、p53発現は免疫染色法により評価した。その結果、39例(68%)にTP53変異を認めた。塩基置換により異なるアミノ酸が生成される「ミスセンス変異」、塩基置換により終止codonとなる「ナンセンス変異」、スプライス部位の塩基置換によって正常なスプライシングが行われなくなる「スプライシング異常」、数塩基の欠失あるいは挿入によってcodonの読み枠がずれる「フレームシフト変異」の4タイプの変異を認めた。症例数はミスセンス変異/ナンセンス変異/スプライシング異常/フレームシフト変異=24/9/4/2例で、疾患特異的生存率はTP53野生型群と比較し、変異群は有意に予後不良であった(p=.02)。 また、変異群では有意に頭頸部・食道扁平上皮癌の既往が多かった(p=.02)。免疫染色法によるp53タンパク陰性症例は35例(61%)、陽性症例は22例(39%)であった。p53の高発現は野生型/ミスセンス変異/Truncated変異(ナンセンス変異、スプライシング異常、及びフレームシフト変異)=28%/71%/0%で見られた。以上のことより、下咽頭癌手術治療例においてもTP53変異は予後に関連することが明らかになった。
3: やや遅れている
研究代表者が平成27年4月より東京医科歯科大学へ移動となったため、東京大学での研究総括者が不在となり研究の遅れが生じてしまった。また医科歯科大学に移動となった研究代表者も、新天地での慣れぬ日常業務に忙殺され、研究が後回しになってしまった。それに加えて東京医科歯科大学の当該ラボには本研究を遂行するのに欠かすことができない次世代シーケンサーやマイクロアレイが設置されていないことが判明した。そこで、院内での協力者を探すことから作業を始めざるを得ない状況に追い込まれた。まず、院内講習を受けて、医科歯科大学のバイオバンク事業に参加することとした。現在手術による摘出標本及び血液検体を凍結保存を開始した。そして、また別の院内講習を受けて、ヒトゲノム倫理審査請求の資格を得た。現在は医科歯科大学で本研究を行うための、次世代シーケンサーを所有している基礎研究教室と共同研究の形として、ヒトゲノム倫理審査の申請書類を作成中であり、近日提出予定となっている。
できるだけ速やかに東京医科歯科大学でのヒトゲノム倫理審査の承認を受けて、東京医科歯科大学で本研究を開始する予定である。
前述したように研究代表者の移動に伴う研究の遅れが若干生じており、そのため支出が抑えられた。
今年度は昨年度の遅れを取り戻すべく、症例集積及びゲノム解析を進めていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Head and Neck
巻: 未定 ページ: 未定
10.1002/hed.24176. [Epub ahead of print]
Cancer Research