研究課題/領域番号 |
15K10809
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
矢野 元 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00284414)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒト頭頸部扁平上皮がん組織 / NHE1 / 集団的細胞運動 |
研究実績の概要 |
頭頸部扁平上皮がんのリンパ節転移の抑止を目指し、その分子過程におけるナトリウムイオン・プロトン交換輸送体1 (NHE1) の寄与を、TGFbeta の活性化機構に注目して追及している。NHE1 が TGFbeta 活性化機序の一端を担うことを示すデータをすでに得ているが、本年度は、それが実際にヒトの頭頸部扁平がん組織においても機能しうるのではないかというデータを得た。ヒト臨床検体を入手・検討する機会を得たことから、実際のヒトの頭頸部扁平上皮がんにおいて NHE1 の発現亢進が起こっていることを確認することができた。このことは、本研究が目指しているがん転移に対する NHE1 の関与が、in vitro の仮説にとどまらない臨床的意義を持つものであることを強く示唆する。 さらにこの病理学的観察は、この NHE1 発現亢進が頭頸部扁平上皮がん細胞の集団での運動 (集団的細胞運動 : collective migration) における重要性を想定させ、実験的にそれを証明・論文投稿にいたった (Oncotarget 誌、revise 中)。 がん転移の基本的分子機構として「上皮 - 間充織形質転換 : epithelial - mesenchymal transition : EMT」知られながく重視されてきたが、昨年末それが必須過程でないことが報告され、集団的細胞運動の重要性が指摘されてきている。この細胞運動様式における NHE1 の関与は既報がなく、当該領域における重要な新知見としてレフリーから評価を受けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定の進捗状況との比較においては、やや遅れていると評価せざるを得ないと考えている。理由は前項に示した通り、新規の観点が見出されてきたからである。 集団的細胞運動において NHE1 がどのような役割を果たしているのかという問いは、EMT に対する評価が見直され始めた現在となっては、重要性を増している。これまでに、NHE1 発現亢進によって細胞内 pH (pHi) が上昇していることが確認されることに加えて、運動している細胞集団における leading cell と呼ばれる細胞群において、pH が低いことを見出している。 NHE1 がプロトンを排出する分子であることから、その発現亢進による pHi の上昇は理解しやすいが、leading cell における pHi の低下は興味深い。Leading cell とは細胞集団の外縁を形成する一列の細胞群で、集団内部を形成する following cell とは異なって細胞 – 細胞接着をもたない細胞膜部位を保持し、この細胞膜部分は運動性の高いラッフル膜を形成しうる。pHi が相対的に低いことは、leading cell における NHE1 が pH 制御以外の機能を積極的に担っていることを想起させる。現在この一連の報告を完成させるべくやや予定外の解析を行っているが、早期にこれを完了させ、予定の解析に復帰する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前項 pHi の解析は、現在 NHE1 発現亢進細胞株における段階にある。続いて NHE1 ノックダウン株、さらには低 NHE1 発現細胞株への野生型および変異型 NHE1 強制発現株にける解析へと続く予定である。これらに付随する解析により、レフリーからの要求を満たし、訂正版論文作成に取り掛かる。 そののち、TGF 活性化過程、特に細胞外基質画分中の TGF の活性化機構解析に入る予定である。 また以前の項に記載しきれなかったが、当初の計画であるもう一つの解析対象因子である LOXL2 についてもおおきな進展が得られている。ヒト血清試料中からの高信頼性の検出法を確立したほか、数十例のヒト検体 (健常 8、患者 22) における解析が進行中である。こちらも積極的に推進いく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要物品の購入を続けていくうち、試薬価格の時価変動等により、少額の誤差が生じた。それを次年度使用額 \1,761 とし、次年度における使用に足して、有効に利用したいと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度生じた繰越金は \1,761 と比較的少額でこれのみでは使途は限られる。しかしながら次年度の交付金と併せることでより有効な物品購入や旅費、謝金等への使用に供する予定である。
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