嚥下障害のリハビリテーション手技の中でもChin Down手技は喉頭挙上や喉頭閉鎖の障害、咽頭残留、嚥下反射の惹起遅延がある患者によく用いられる。しかし、その理論的根拠は十分に解明されておらず、Chin Down手技も施行者により多少異なり、上部頸椎を前屈する頭部屈曲位、下部頸椎を前屈する頸部屈曲位、その両者を複合した複合屈曲位に分類される。我々は、この3種類のChin Down手技が嚥下圧動態にどのように影響するか、高解像度咽頭食道内圧計(HRM)を用いて健常成人を対象として検討した。正面視と3種類のChin Down手技で、軟口蓋部・中下咽頭部・UES部の最大内圧及びUES部の平圧化持続時間を測定し、それぞれの検査結果を比較検討した。その結果、UES部では正面視に比べて頸部屈曲位と複合屈曲位で有意に最大内圧が低下した。UES部の平圧化持続時間は、正面視に比べて頸部屈曲位で有意に延長した。頸部屈曲位ではUES部の最大内圧が低下し、UESの平圧化持続時間の延長したことから食塊のUES通過には最も有利と考えられた。 嚥下造影検査による食道癌術後患者の検討では、頸部屈曲位によるChin Down手技により、咽頭収縮の改善と梨状陥凹の残留量の減少、食道入口部開大距離の増加、食道開大時間と喉頭閉鎖時間の延長、誤嚥の改善が認められた。HRMを用いた検討では、下咽頭圧の上昇とUESの開大時間の延長がみられた。このことより嚥下障害患者でも頸部屈曲位によるChin Down手技の有効性を客観的データで確認できた。 インピーダンスを用いた嚥下機能評価では、検査に有効な食材について検討し生理食塩水が安全性、簡便性、評価効率から最も良いことが判明した。現在、健常成人と嚥下障害患者においてHRMと同時にインピーダンスによる評価を継続している。
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