研究課題/領域番号 |
15K10825
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
永井 浩巳 北里大学, 医学部, 講師 (70237486)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 再生 / 喉頭麻痺 / 塩基性線維芽細胞増殖因子 / Drug delivery system / 自家筋膜移植 |
研究実績の概要 |
我々の研究目的は、麻痺喉頭の再生である。再生の治療効果を評価するには、麻痺によっておこる変化と、治療介入による変化を比較する必要がある。この点から、組織学的評価は欠かせない項目である。神経麻痺によっておこる廃用症状は、筋肉の萎縮、筋周囲組織の線維化、栄養血管の萎縮などがある。喉頭が廃用状態になると、声帯筋の萎縮、声帯粘膜の弾性繊維の減少、声帯の粘性の低下が起こり、声門閉鎖不全を引き起こす。これにより嗄声や誤嚥の危険性が増大する。我々の研究は、この喉頭の廃用変化に対して、線維芽細胞増殖因子とうい成長因子と、自己筋膜の移植を行うことで、再生に必要な3要素、細胞、足場、成長因子を麻痺喉頭組織に与え、組織の再生を促す試みである。 組織評価は、摘出喉頭の連続切片を作成し、ヘマトキシリン-エオジン染色を行いその形状を評価する。喉頭は、軟骨がある組織であるため、薄切時に軟部組織との剥離が生じやすい。そのため、ギ酸+ホルマリンやXCL+ホルマリン溶液を薄切時に随時施行することで、比較的安定して薄切ができている。検体は、免疫染色の反応性が低下しないように、薄切後、パラフィンでコーティングし、4℃の冷蔵庫でサランラップに包んで保管している。免疫染色は、血管分布についてはCD34を、神経分布についてはS100を用いて免疫組織染色を行っている。一次抗体の反応時間は、オーバーナイトとしている。治療効果を評価するため、喉頭麻痺群の組織変化を基本としている。非治療側と比較して、各症例の組織の変化を表した。筋膜移植群、bFGF徐放群とbFGFを徐放させた自家筋膜移植群の各群で6例の標本を作成し、検討している。現在、HE染色での各群での形態変化を評価しながら、並行して免疫染色を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
組織学的検討で、使用したラットは45匹であった。当初、実験動物の経過が安定しなかったため、脱落症例があった。そのため、当初の予定より、終了まで時間が多くかかってしまった。結局、最終的に評価できる症例は25例であった。実験終了後に速やかにCO2の吸入により安楽死させて、喉頭を摘出した。ヘマトキシリン-エオジン染色は、16例、179標本で、CD34染色は、8例、85標本で行っている。S100染色は、現在、先行実験中であり、コントロールの設定と、染色時間、一次抗体の濃度の選定を行っている。 現在、神経トレーサを用いた治療介入後の神経支配の評価を行うため、喉頭麻痺モデルの作成を行っている。ただ、移植後のラットの状況が安定せず、体重減少による安楽死症例などが続発している。現在、原因の同定作業中であるが、手術後の経口摂取障害が起こっている可能性があるかもしれない。
|
今後の研究の推進方策 |
移植術後のラットの安定化が最重要課題である。手術中や手術直後の死亡例は、ほとんどなくなった。しかし、1週間程度すると体重の減少が認められ、死亡する症例や安楽死を余儀なくさせる症例が散見されるようになった。手術後の経口摂取の減少の原因が、単なる嚥下機構の障害で起こっているのか、それとも、上気道の狭窄により、2次的に経口摂取が困難になっているのかは、明確な答えが見いだせていない。現在のところ、上気道が十分に保たれていないために、嚥下機能が影響を受けていると推測する。そこで、手術中の気管切開の方法に工夫を加える。気管切開部をあまり胸骨陥凹の近くにせず、皮膚縫合を行っても、気管に力がかかりにくくする。また、切開は逆T字切開とする。これで気道の確保が十分にできれば、手術後の身体侵襲は軽減できると考える。 免疫染色は、時間があれば順次施行できると考えている。ただ、ひとつの抗体に対して25検体の対象があり、一回の免疫染色(2日)で1検体しかできないので、5-6か月くらいかかる。これとともに、実験動物と並行して行っていく予定なので、やはり双方の実験計画がずれ込む可能性もある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
手術後の症例の不安定な状況が、最もはっきりとした原因である。あと、免疫染色において、当初考えていたCD31抗体を使用して染色していたが、染色が思うようにできず、ラットにおいて安定した結果が得られなかった。このため、CD34抗体へ変更せざるお得なかったことも、実験が順調に進まなかった原因と考える。現在S100での神経線維の染色を行っているが、コントロールの設定に苦慮している。 免疫染色については、今年度中には完了すると考えているが、神経トレーサの実験も、先行実験がまだ途中であり、計画としては、少し終了が遅れることも考えられる。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度中に行う予定であった免疫染色による組織の検討が、終了できていない。摘出標本は作製しているが、各種抗体での実験が終了していない。このため、免疫染色を行うための試薬の購入が必要であるため、次年度に計上する。神経トレーサの実験は、現在、症例を作成中である。平成29年3月現在の動向として、30症例が、喉頭麻痺モデルとして作成できている。現在、順次、治療介入を行っている。この調子で実験を進めると、平成29年9月頃には、神経トレーサの実験に入れると考えている。ただ、現在、治療介入後の症例で、脱落症例が目立っているのが問題であり、症例確保に、もう少し時間がかかる可能性がある。神経トレーサの購入や、継続する実験井伴う動物の購入に費用が必要であり、次年度に計上する。
|