本研究は、喉頭に入っていく血管・神経を断絶させるモデルを再生させることを基本とした研究である。組織は、通常、血管・神経が遮断されると生きていけない。しかし、in vivoの実験では、細胞が死に絶えない。たとえ、中心となる血管・神経を遮断しても、末梢で側副路があり、周囲から栄養を受け取れることができるからである。これが、in vitroと異なる点である。だからこそ、我々は、この組織再生の研究に、万能細胞ではなく、環境因子を賦活させるLangerの考え方を選んだこの研究を行っている。 昨年度までに行った喉頭の組織学的検討は、血管分布をみるCD34、神経再建の指標にもなるシュワン細胞のマーカーであるS-100と、神経軸索であるNFの発現をみた。コントロールである脱神経・血管モデル群は、健側に比べて、血管分布、神経分布が低下していた。S-100は、bFGFを徐放させた自家筋膜移植群が、他群より陽性部分が多かった。NFは、bFGF徐放群と、bFGFを徐放させた自家筋膜移植群で、陽性部分が多かった。 今年度の本研究の問題は、手術操作の安定と、逆行性神経トレーサ―の実験系の確立と実験の終了であった。手術は、麻酔薬の変更と、手術時間の短縮で、安定した結果を得た。30症例中で5例のみに手術関連死を認めた。一方、逆行性神経トレーサ―の実験は、まずは、喉頭内に確実に試薬を注入できるかから始まった。これを解決したのは、焦点距離の変更であり、フィルターを用いることで解決した。これで、的確に喉頭内に神経トレーサ―を注入できた。注入部位の確認は、安楽死後の摘出喉頭標本で確認した。さらに、パラホルムアルデヒドによる還流実験も、安定して組織採取ができた。蛍光抗体の評価は、共焦点顕微鏡を用いて行う。逆行性神経トレーサの実験は、24例中13例で完遂できており、随時継続中である。
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