4頭のビーグル犬に静脈麻酔を行った後、下腹部皮下より脂肪細胞を採取し、サイトリセラピューティクス社製の遠心分離機Celutionを用いて脂肪由来再生細胞(Adipose Derived Regenerative Cells : ADRCs)を採取した。ADRCs採取の間に、両側声帯粘膜上皮の切除モデルを2頭、声帯粘膜と同時に声帯筋層まで切除した両側声帯の筋層切除モデルを2頭作成した。声帯粘膜上皮切除モデルと声帯筋切除モデルは、喉頭截開して声帯を明視下においてメスによる手術を行った。各モデルにおいて、採取したADRCs+脂肪細胞を一側声帯内に同量を注射し、他側は生理食塩水のみを同量注射した。 実験から1年後に喉頭を摘出し吹鳴実験の様子をビデオ録画し、声帯振動状態を観察した。その結果、声帯上皮欠損モデルと声帯筋層欠損モデルの双方において、ADRCs+脂肪細胞を注射した声帯の振幅と粘膜波動は大きかった。生理食塩水のみを注射した声帯の振幅と粘膜波動は小さかった。 病理学的検討では、上皮欠損モデルではADRCs+脂肪細胞注射群と生理食塩水注射群との間に再生した上皮に差は認めなかった。筋層欠損モデルではADRCs+脂肪細胞を注射した群の声帯にヒアルロン酸の産生を認め、再生粘膜はより厚くなり、膠原線維も多く産生されていた。膠原線維の局在は生理食塩水を注射した声帯では菲薄化した粘膜全層に密に沈着していたのに対し、ADRCs+脂肪細胞を注射した声帯では膠原繊維は粘膜深層で疎となり、同部に弾性線維の増増生を認めた。
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