研究課題/領域番号 |
15K10856
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
加瀬 諭 北海道大学, 大学病院, 講師 (60374394)
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研究分担者 |
神田 敦宏 北海道大学, 医学研究科, 特任講師 (80342707)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | αBークリスタリン / VEGF / リン酸化 / 血管新生 |
研究実績の概要 |
増殖糖尿病網膜症(PDR)では網膜の虚血、炎症などにより、眼内に著明な新生血管、リンパ球浸潤を伴う増殖組織が形成される。PDRの増殖、進展に、血管内皮増殖因子(VEGF)が重要な役割を果たし、私はこれまでsmall hieat shock proteinの1つであるαB-クリスタリンがVEGFの分子シャペロンとして働くことを示してきた。シャペロン能はそのリン酸化と相関することも知られている。本研究ではPDRにて硝子体手術を施行し、病理学的な解析が可能であった増殖組織を10例収集し、αB-クリスタリンとそのリン酸化について解析した。増殖組織の新生血管にはVEGFとαB-クリスタリンの共発現がみられた。加えてαB-クリスタリンの3つのリン酸化部位(Ser59, 45, 19)において、VEGFとの関連を検討した。結果的にSer 59リン酸化とVEGFの発現が最も相関していることが示唆された。αB-クリスタリンSer 59リン酸化は、p38のリン酸化により誘導されることが知られている。本研究では、PDR増殖組織にSer 59リン酸化とp38の共発現も確認された。一方、脈絡膜悪性黒色腫の摘出眼球における正常網膜での発現を検討したところ、正常網膜血管にαB-クリスタリンのリン酸化はみられず、p38の発現もなかった。最後に、このリン酸化は術前に抗VEGF薬治療に関わらず、VEGFの分子シャペロン能に関与していることも示し、αB-クリスタリンリン酸化は抗VEGF薬治療の無効例においても、治療標的となり得る(Int J Ophthalmol 2016)。併せて、ヒトPDRでは、特に糖尿病無治療の患者において網膜の異常だけでなく、脈絡膜も肥厚していることを示した(Eur J Ophthalmol 2016)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトの糖尿病網膜症の増殖組織を用いた解析は順調に進めることができた。他方、ストレプトゾトシン誘導糖尿病モデルマウスの作成においては、現在誘導1-2か月の血糖値、体重測定などを行い、VEGF、αB-クリスタリンのリン酸化について発現解析を準備している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
αBークリスタリンのリン酸化は糖尿病網膜症の病理的新生血管の発達に重要な役割を果たしていることが示唆された。今後は、STZ誘導糖尿病マウスモデルにおいて、網膜と脈絡膜の蛋白を抽出し、VEGF、αBークリスタリンのリン酸化を検討する。病理組織学的に両者の免疫活性部位を明らかにして、共発現しているか確認する。マウス光干渉断層により網膜や脈絡膜の厚さも測定し、VEGF-αB-クリスタリンの発現と相関するか、誘導1-2か月のマウスを使用して、評価を行う。さらに、抗αB-クリスタリン抗体やsiRNA、さらにはp38の阻害薬を眼内注射し、糖尿病モデルマウスにおけるVEGF濃度の変化について、解析を行う。以上より、αB-クリスタリンのリン酸化がPDRの治療標的になるデータを収集する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度実施の予定であったストレプトゾトシン(STZ)誘導マウスは、刺激後2週、3週では血糖値の増加がえられなかったため、さらなる長期間の経過観察が必要になった。現在、刺激後2か月まで経過観察し、眼球の実験を施行している。加えて、刺激後1か月の摘出眼球の固定が不良であったため、病理組織学による形態学的評価が困難であり、免疫組織化学が施行できなかった。そのため、STZ誘導糖尿病モデルマウスを維持、抗体購入に次年度額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
STZ誘導糖尿病モデルマウスの飼育費、抗体やELISA購入に必要となる
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