研究課題/領域番号 |
15K10859
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
加治 優一 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (50361332)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 右手型アミノ酸 / 加齢黄斑変性症 / 糖尿病網膜症 / 蛋白糖化最終産物 / 抗酸化物質 |
研究実績の概要 |
本研究は,加齢黄斑変性症の病変に補体や免疫グロブリンなどの免疫複合体が沈着することや,増殖性糸球体腎炎などの免疫反応が関わる血管病変を有する患者において加齢黄斑変性症の罹患率が高いという事実に着目し,加齢黄斑変性症と自己免疫の関係をあきらかにすることである. 加齢黄斑変性症患者 20症例分の血清およびコントロール患者の血清を採取し,加齢黄斑変性に関する血清バンクを確立した.血清中の総IgGはコントロールと有意差がないことを見いだしている. D-アミノ酸含有タンパク質を固着させることで,抗D-アミノ酸含有タンパク質抗体を測定することのできるELISAキットを作成することができた.Preliminaryな検査では,加齢黄斑変性症患者において抗D-アミノ酸抗体が上昇していることを確認することができた.さらに患者の血清中にはD-アミノ酸含有タンパク質の断片が遊離していることも観察することができ,現在同定を行っている. D-アミノ酸と同様に,加齢黄斑変性症に関わる変性タンパク質として,蛋白糖化最終産物がある.蛋白糖化最終産物の中でも生体における役割が明らかになりつつあるCML,ペントシジン,イミダゾロンについての濃度を測定することのできるELISAキットを作成し,加齢黄斑変性症患者における血清濃度を測定している.現在は糖尿病網膜症の硝子体液での蛋白糖化最終産物濃度の上昇を確認できている.硝子体中の蛋白糖化最終産物濃度は,糖尿病黄斑浮腫で高い傾向があり,血液中のHbA1c濃度とは特に有意な相関を見いだせなかった.さらに硝子体中の総Antioxidant Activityとは負の相関関係を見いだした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は加齢黄斑変性症患者における血液中の自己抗体の同定を行うことを目的としている.すでに血液の血清バンクが完成し,本来の目的である自己抗体(抗D-アミノ酸タンパク質に対する自己抗体)の同定を終え,臨床所見との関連を検討中である. 本研究のさらなる目的は,加齢黄斑変性症に対する新しい病態メカニズムの解明にある.すでにD-アミン含有タンパク質を可視化させる抗体を作成し終えただけではなく,D-アミノ酸含有タンパク質の同定,そして変異部位を網羅的に解析するための質量分析装置の開発を終えている. この一年で,研究成果の公表を行うだけではなく,次のステップに移行する基礎を築くことが可能となるはずである.
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今後の研究の推進方策 |
加齢黄斑変性症においてD-アミノ酸含有タンパク質に対する自己抗体が明らかになったことにより,今後はその標的となるタンパク質の同定が必須となる.すでに我々は海外のアイバンクより眼球の提供をしていただき,眼局所における変性タンパク質の同定を進めている.その結果,加齢黄斑変性症だけではなく,白内障や加齢性の角結膜疾患における分子動態が明らかになる. 加齢黄斑変性症の発症の引き金のひとつであるドルーゼン(網膜色素上皮下の沈着物)は,アミロイドベータを含んだ多くのタンパク質からなる凝集物である.異常変性タンパク質であるドルーゼンは,チオフラビンTという蛍光色素に親和性があり,光線力学療法の対象となる可能性がある.本年度はドルーゼンの組成およびD-アミノ酸含有タンパク質の同定にはじまり,光線力学療法の基礎にまで発展させていく. 加齢黄斑変性症などの加齢性変化においては,右手型アミノ酸をはじめとした変性タンパク質の蓄積が観察される場合が多い.変性タンパク質は肉眼での観察は困難である.しかし質量分析装置やラマン顕微鏡により,変性タンパク質のみを可視化させることができる可能性が明らかになってきた. 我々は生体における変性タンパク質の局在を可視化させるラマン顕微鏡を開発し,すでに角膜疾患や感染性疾患において有用であることを見いだしている. 今後は加齢黄斑変性症の超早期診断,および変性タンパク質の蓄積の有無という質的診断をなしえるためにも,ラマン顕微鏡の開発とともにその臨床応用を目指していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費採択が半年遅れたために,一年目の研究をスタートするのが半年遅れました.その後,研究計画は順調に進んでおり,予定の研究費を使用することによって研究を進めることができています.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度はヒトの眼球を対象とした実験を中心に行うために,実験用の人眼の輸入を含めて多額の研究費が必要となります.さらに国内外の学会や雑誌へ成果の公表を行うことを目標にしており,すべての研究費を最大限に活用して研究を進めて参りたいと思います.
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